2023年を「ウィズコロナ」で迎えた中国

 2023年が幕を開けました。激動の2022年を経て、今年はどんな年になるのか。本連載では引き続き中国を巡る動向を扱っていきます。中国がどのように発展し、どのような国家、市場、社会になっていくかという問題は、世界経済全体に巨大で不確かな影響を及ぼすことが必至です。

 そんな中国社会は、2023年を「ウィズコロナ」で迎えました。「中国版ウィズコロナ」と表現する方が正しいかもしれません。2022年11月下旬から12月上旬にかけて、感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」策を大幅に緩和。例として、PCR検査の義務化を撤廃しました。年末には、水際対策の大幅緩和に踏み切りました。これまで入国者に対して科していた隔離措置をなくし、渡航の48時間以内にPCR検査をし、税関で陰性証明を提示すれば入国可能としました。中国政府は、中国と外国間の人の往来を活性化し、多くの外国人ビジネスマンに恩恵をもたらす政策だと誇りました。

 2022年10-12月期、および通年の統計結果はいまだ発表されていませんが、2022年の中国経済は全体的に、著しく低迷しました。4~5月にかけてロックダウン(都市封鎖)に見舞われた上海市が典型であったように、サプライチェーン(供給網)や個人消費に致命的な影響を与える「ゼロコロナ」策が景気の足かせになったのは論をまちません。

 その意味で、10月の第20回党大会で3期目入りを決めた習近平(シー・ジンピン)総書記が、自らが政治的に正当化し、約3年間堅持してきた「ゼロコロナ」策を変更した事実は私にとってもサプライズでした。長い目で見れば、中国経済および世界経済の復興にとってもプラス材料だと言えるでしょう。

 一方で、中国で起こっている現象を眺めていると、2020年初頭、つまり湖北省武漢市で新型コロナウイルスのヒトへの感染が確認され、そこから急激に感染拡大していった光景が脳裏をよぎります。

急増するコロナ感染者と懸念される死者数

 中国でいま起こっていること、とは新型コロナの感染拡大です。厳密には種類が細かく分かれ、例えば広東省と北京市で流行しているウイルスは異なるようですが、オミクロン変異株の感染拡大が中国全土を覆っているのが現状です。2022年12月の方針転換を経て、中国政府は新型コロナの新規感染者数や死亡者数を発表しなくなりましたが、中国国内や海外からの情報、および私の知人たちとのコミュニケーションからすると、感染していない地域、職場を見つけるのが難しいくらい、多くの国民がコロナに感染しているようです。

 例えば、上海を拠点にするある外資系企業では、従業員約30人のうち半分以上が感染、体調を崩し自宅療養、多くの仕事がいったんストップしているとのこと。また、北京にある某政府機関のある部署では、同部署で働く20人のうち、コロナに感染していないのは2人だけで、うちの一人は「仕事にならない」と嘆いていました。

 実際にどれだけの国民が新型コロナに感染し、重症化し、死亡しているのかに関し、中央政府は明確な数字を発表していませんが、地方政府による断片的な発表を見る限り、事態は相当深刻です。例えば、浙江省政府は2022年12月25日、会見で、1日あたりの新規感染者が100万人を超えていると発表。年末年始のピーク時には1週間にわたって毎日200万人の新規感染者が出るとの見方を示しました。浙江省の人口は約6,500万人ですから、32人に1人が感染している計算になります。

 また、山東省青島市政府は12月23日、1日あたりの新規感染者が49万~53万人、広東省東莞市政府は同25万~30万人あたりで推移していると発表。両市の人口はいずれも約1,000万人で、20~35人に1人が感染している計算になります。これらの数字を私がこの期間話をしてきた中国の知人に聞いてみると、全員が「そんなもんじゃない」という反応を示しました。

 気になるのは致死率です。中国政府は、オミクロン変異株について、「感染力は強いが重症化しない。安静にしていれば短期間で回復し、後遺症も残らない」と説明。独自の「科学的根拠」を材料に国民を説得し、「ゼロコロナ」策の大幅緩和に踏み切りました。ただ、その根拠が中国に当てはまるかどうかに関しては疑問が投げかけられています。

 ロイター通信によると、米国のワシントン大学医学部保健指標評価研究所は12月16日、2023年を通じて中国のコロナ感染による死者は100万人を超える恐れがあるという見通しを公表。感染者数増加のピークは4月1日ごろで、死者は32万2,000人を超えると予想した上で、マレー同研究所長はこの時点までに中国全人口のおよそ3分の1が感染を余儀なくされるだろうとコメントしています。

 同じくロイター通信によると、英国の医療関連調査会社エアフィニティーが12月29日、中国でコロナ感染による死者が1日当たり約9,000人との試算を示しました。コロナ感染は1月13日に最初のピークを迎え、1日当たり370万人に達する、1月23日には死者数がピークに達し1日当たり約2万5,000人になる、昨年12月以降の累積死者数は58万4,000人になると見込んでいます。

 現状、および先行きが懸念される中、中国では1月22日の春節(旧正月)に向けて、国民が帰省に向けた各種準備をしているようですが、「物事が動かない」という現状に直面しているのは明らかです。経済回復のリスクとなる可能性も否定できません。

懸念される三つの影響:経済、政治、外交

 中国政府は、それでも医療専門家の見解などを活用しつつ示してきたように、3月くらいにかけて新型コロナの新規感染者数はピークに向かい、上半期中には社会は正常化する、言い換えれば、今起こっている現象は想定内であるとの立場を堅持しているようです。

 ただ、私は三つの視点から先行きを懸念しています。

 一つ目が、経済への影響です。「ゼロコロナ」策の大幅緩和は、少なくとも一時的に景気の下振れ圧力となっています。中国国家統計局が12月31日に発表したPMI(購買担当者指数)は47で、11月の48からさらに悪化しました。建設業とサービス業を対象とする非製造業PMIは41.6(11月は46.7)と低迷、いずれの指数も、武漢からコロナが感染拡大した2020年2月以来の低水準となっています。

 コロナ禍はいずれ終わると仮定して、これらの数字もどこかのタイミングで上向くのでしょうし、GDP(国内総生産)実質成長率が目標であった5.5%に達せず、3%前後に終わる見込みの昨年に比べれば、景気全体は回復する可能性が十分にありますが、特に上半期は依然として予断を許さない状況が続くでしょう。

 二つ目が、政治への影響です。本連載でも扱いましたが、習政権は、11月下旬、新疆ウイグル自治区ウルムチ市で発生した火災事件、およびそれをきっかけに広がった抗議運動を受けて、「ゼロコロナ」策を大幅に緩和した経緯があります。要するに、コロナ禍は政治の安定と密接に結びついているということです。例えば、仮に前述したコロナ感染による死者数が持続的に増加し、「中国ではコロナ感染で100万人が死亡」といった見立てが現実化すれば、国民は再び同政権に対し、「話が違うじゃないか」という観点から抗議の声を上げる可能性があります。コロナと政治、という意味でも2023年は注目の1年になります。

 三つ目が、外交への影響です。中国政府の水際対策緩和を受けて、日本を含め、各国は中国からの入国者に対する水際対策強化を発表しています。日本政府は、2023年1月8日から、中国からの渡航者に対しPCR検査を義務化、直行便での入国者には72時間以内の陰性証明提出も求めます。

 1月3日、中国外交部の毛寧(マオ・ニン)報道官は定例記者会見にて、「コロナ抑制措置を弄ぶことで政治的目的を達成しようというやり方に断固反対し、異なる状況に対し、対等の原則に基づいて然るべき措置を取る」とコメント。日本を名指しにしたわけではありませんが、日本政府の措置が同報道官によるけん制の標的に含まれているのは疑いなく、今後、状況次第では、中国政府が日本から中国への入国者(どれだけの日本人が、感染が急拡大するさなかにある中国に向かうかは別として)に対し、水際対策を強化する可能性も十分あるでしょう。

 新型コロナウイルスの発生源問題を巡って、中国と米国、豪州などの外交関係が悪化したように、中国からの渡航者に対する水際対策強化を、「中国への差別」、「民族としての屈辱」と捉える中国と、日本を含めた諸外国との間で、外交問題に発展するリスクは念頭に置いておくべきです。