米FOMCに揺れるドル/円相場

 先週9日に発表された米国の11月PPI(卸売物価指数)は、前年同月比+7.4%となり、市場予想を上回ったことから金利が上昇し、ドル高となりました。しかし、予想は上回ったものの前月10月の+8.1%と比べると伸び率は鈍化し、過去18カ月で最も低い伸びとなりました。

 そして、13日に発表された11月のCPI(消費者物価指数)は、市場では前月10月の+7.7%より低下するとの予想でしたが、その予想を下回り、+7.1%にとどまりました。上昇率は5カ月連続で縮小しました。それを受けて、ドル/円は1ドル=137円台から134円台へと3円も急落しました。

 このように11月のPPI、CPIではともにインフレの鈍化傾向が示されたことから、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が13~14日に開くFOMC(連邦公開市場委員会)[日本時間15日(木)午前4時結果発表、午前4時30分パウエル議長記者会見]で、政策金利の引き上げ率を0.50%にとどめることはほぼ織り込まれました。

 これまで4会合連続で0.75%の利上げをしてきましたが、利上げがペースダウンすることになります。そして、来年の利上げペースを占う上で焦点となる2023年末の金利水準について一段と注目度が高まっています。

 市場は、PPIとCPI上昇率の鈍化を受けて楽観的なムードとなりました。FRBが今の市場の気分を否定するかのように、インフレ抑制にまだ時間がかかるとのタカ派的な姿勢を貫くのかどうか。あるいはインフレがピークアウトしたことを認め、利上げの副作用として景気後退に陥るリスクを意識して、タカ派姿勢を緩めるのかどうかに注目したいです。

 FRBのインフレに対する姿勢いかんによって来年のドル/円相場の方向が決まるため、今年最後、最大の材料となります。

 今回12月のFOMC会合では、2023年末の政策金利の見通しが示されます。9月のFOMC時点では2023年末の金利見通し中央値は4.625%でした。パウエルFRB議長は11月30日の講演で政策金利のターミナルレート(利上げの最終到達水準)が「4.6%を超えていくらか高く」と述べました。

 この「いくらか」が5%以内にとどまれば、ドルは再び売られると予想していました。

 しかし、13日のCPI発表前に市場では早くも5%以下とみる予想が高まり、CPIが発表されるとドル安が進みました。今回のFOMCで示される2023年末の金利見通しが5.0%以内にとどまっても、ドルが既にある程度売られているため、あまり強いドル売りにはならないかもしれません。

 逆に、5%以上になった場合には、11月のCPI発表後にドル安地合いとなった今の相場から一転して、ドルが予想以上に反発する可能性もあるため、注意が必要です。

 2023年末に加えて、2024年末の金利見通しも重要となります。9月時点の見通しでは2023年(4.625%)から2024年(3.875%)にかけて0.75%低下するとの見通しでした。この低下幅が縮小するのか、拡大するのか鍵になります。縮小すれば、利下げペースは鈍く、拡大すれば利下げペースが早まることが推測されます。

 このように2023年だけでなく、2024年の金利見通しと比較することによって、利上げ幅縮小のペースや利上げが停止されるタイミング、ターミナルレートに到達した後、その高金利が続く期間、そして利下げに転じる時期や利下げのペースについて、FRBがどのように捉えているのかを推測することができます。

 パウエル議長の今回のFOMC後の記者会見にも注意が必要です。声明文や金利の見通しによって、マーケットが「楽観」に前のめりになったときは、パウエル議長はこれまでもあったようにタカ派的な内容を示して市場の「楽観」を冷やす発言をすることが予想されます。

 既に市場では、来年後半には利下げもありうるとの楽観的な見方が広まっていることから、パウエル議長はタカ派姿勢で臨むことが予想されます。

 一方で、2023年末の金利見通しが5%を超えるタカ派的な水準となった場合は、資産市場へのショックを和らげるためにパウエル議長はハト派的な内容も説明するかもしれません。

 しかし、その場合でも、インフレは鈍化しているとはいえ、依然高い水準のため、パウエル議長は、インフレとの戦いは長期戦の構えになると考えていることに留意する必要があります。インフレを抑制するため、利上げは続き、目指す金利水準に到達しても、その高い水準を長期にわたって続ける可能性があります。

 いずれにしろ、FOMCの声明文や今後の金利見通し、その後のパウエル議長の記者会見によって、市場は翻弄(ほんろう)される可能性が高いため、気を付けなければなりません。

 前回のコラムで、来年の為替見通しとして、「来年は景気が後退し、インフレのピークアウト感が鮮明になり、利上げペースが遅くなるか利上げ停止期間が長引けば、ドル/円は来年前半に1ドル=130~135円のレンジに入ってくる」というシナリオをお話ししました。

 12月早々に、一瞬そのレンジに入りましたが、円高に傾き過ぎたことから、135~140円のレンジにいったん戻りました。11月のCPI公表を受けて、再び135円割れのレンジにトライしましたが、その後は135円台に戻って、FOMC待ちとなっています。FOMCや記者会見を含めて総じてタカ派色が強くなっても、140円台の円安水準はかなり遠くなったようです。

 FOMC後のドル/円はどのような動きになるのでしょうか。135円は割れず、底堅くなって反発し、136円、137円台に戻るのか、それとも135円を割れるのか注目です。135円の攻防の末、135円を割れて円高になれば、想定よりも早く130~135円のレンジでクリスマスを迎えるかもしれません。

 しかし、今年は大相場だったため、今年最後の材料出尽くしによって、今週が終われば来週からはクリスマス相場に入る可能性もあります。そうなると一段の円高は来年に持ち越しかもしれません。

15日のECB理事会にも注目

 今週は、15日のECB(欧州中央銀行)理事会も波乱材料になる可能性があるため注意する必要があります。

 ECB内ではタカ派が存在感を見せているものの、理事会前日の14日にFRBが利上げ幅を0.50%にペースダウンさせたことが確認されれば、ECB理事会で0.75%の利上げを決めるとは考えにくいのではないでしょうか。いつも行動の遅いECBも、今回はFRBに追随することが予想されます。

 ただし、ユーロ圏の11月のCPIは10.0%と2桁の上昇率を示し、物価の高止まりが続いています。前月よりも上昇率は縮小したとはいえ、米国と違って、まだはっきりとインフレの鈍化傾向をみせていません。

 ラガルドECB総裁は理事会後に開く記者会見で、インフレ抑制に立ち向かうタカ派的な姿勢を強調する可能性があり、警戒が必要です。ただ、発言だけではユーロ買いの支援材料にはなりにくいかもしれないため、利上げによる反発は限定的かもしれません。