インフレと各種の運用手段
上記の考え方を踏まえた上で、各種の投資対象とインフレとの関係について簡単に整理してみたい。
【固定利付きの債券】
インフレが更に進むという前提条件の下では、固定利付きの債券は基本的にダメだ。しかし、インフレの予想外の低下や伸び悩みが起こると、高いリターンが期待できるかも知れない。
インフレが進んで、長期金利がゼロから十分に上昇した時に、アセットアロケーションの一要素として、長期国債が個人投資家の運用の一部の選択肢になり得る場合はあるかも知れない(当面は考えにくい)。
尚、個人向けに売られている社債は、情報のコンテクストを考えると個人向けに売られている(=機関投資家向けに人気のない条件だからだ)という時点で投資対象から除外することが賢い。
【コモディティ関連商品】
金、原油、穀物、商品指数連動などの商品は、今後「インフレが今思われているよりも進む」と決めつけることが出来るなら良い投資対象になる理屈だが、そうした「決めつけ(=予想)」は難しい。
コモディティのリスクは、リスク・プレミアムを伴う「投資のリスク」ではないので、将来のインフレリスクに備えたヘッジとしてコモディティ関連商品を持つのも勧めにくい。
インフレリスクのストーリーに乗せられて購入しないことに気をつけるべき商品カテゴリーだろう。
【株式】
長期的にはインフレに中立なので、リスク負担に対するリスク・プレミアムが期待できる。インフレヘッジ云々ではなく、リスクテイクとして有利だと考えるのなら「長期」、「分散」、「低コスト」の原則に従いつつ投資したらいい。
【不動産】
株式と同じく、長期的にはインフレに中立な投資対象であるはずだ。レント(賃料)はインフレに連動し、割引率もインフレに連動するので、プライシングの理屈は株式と同じだ。
不動産は、資産クラスとして超長期で見た時のリターンの安定性と高さには魅力があるが、個別物件のリスク及び流動性や取引コストに注意が必要だ。
分散投資されているREITは研究する価値があると筆者は考えている。
【FX、暗号資産】
ゼロサムゲームのリスクなので資産形成には不向きだ。娯楽用だと考えよう。
【外貨預金】
主たるリスクは為替リスクとなり、為替に対する賭けとなる。金利が債券よりも不利である事が多く、運用として効率が悪い。通常の個人の運用選択肢には入らないはずだ。
「守りのための投資」という誤解
投資商品について残念ながらよくありがちな「脅しのマーケティング」を見て常々思うことだが、「○○リスクをヘッジするために(リスクを取った)投資が必要です」といった、投資が言わば「守りのため」にあるような考え方は不適切だ。
投資によって稼いだリターンが、将来の生活を救うことはあり得るが、それは結果論であり、投資には常にリスクが伴う。投資は「リスクを取る事が有利だ」と思う人が行うもので、金額が大きくても小さくても基本的に「攻め」として行うべきものだ。ごく少額の投資の場合、精神的に「攻め」と呼べるほど勇ましく思えないという印象論はあるが、小さくても意味的には「攻め」だろう。
他方、マーケティング的には、ストーリーを「守り=損の回避」にした方が「攻め=上手く行くと儲かる」よりも心理的なインパクトが大きい。そのため、「生活を守るために投資が必要だ」という意味づけが行われがちだが、乗せられない方がいい。長期で投資してもリスクは縮小しないし、投資にはどこまで行ってもリスクがつきまとう。また、「絶対に大丈夫」と言えないからこそ、リスク・プレミアムが存在する。
投資は、生活防衛のために仕方がなしにやるべきものではない。儲けたい人がリスクを取って行う前向きな行為だ。朗らかに攻めるといい!
個人投資家はどうしたらいいのか
インフレがあろうと無かろうと、「長期、分散、低コスト」の3原則を守り、自分に取って適切な額のリスク資産をじっと保有することが基本だ。また、副次的に、手段としてDC(確定拠出年金)、NISAなどを有効活用することが推奨される(これらは投資の商品ではなく、あくまでも投資商品の「有利な置き場所」だ)。
こうした投資以上に上手いことができる訳ではない。先ず、この点についてしっかり理解することが大事だ。「インフレだから」あるいは「インフレに備えて」何か特別なことをしなければならないとか、何か有効なことが出来ると思わないようにしよう。
その上で投資していても、投資の成果は、結果的にインフレに及ばないこともあり得るし、インフレを大きく上回るリターンが得られていることもあり得るだろう。リスク・プレミアムが存在するなら、後者の可能性が大きいはずだが、もちろん絶対にそうなるなどということは言えない。ご幸運を祈る。