投資小説:もう投資なんてしない⇒

第5章 分散投資は、個人投資家を堕落させるか、成功させるか

<第3話>なぜ人は、長期投資ができないのか

 隆一は少し不思議に思い、先生に尋ねた。
「先生の話を聞いていると、投資ってインデックスファンドをいくつか組み合わせて、長期で持てば年利で7%前後のリターンが上がるので、それほど難しいとは思えないのですが」

「そうですね。しかし、世の中には<言うは易し行うは難し>が多いのです。例えばジョギング、マラソンなども単に走っているだけに見えますが、フォーム、適切な筋力、メンタル面が揃わないといい走りはできません。では、多くの人が長期投資でうまくいかないのはなぜか? それは、人は損をしたくないという気持ちがとにかく強いからです。お金がなくなると生活ができなくなりますので、生存の欲求が脅かされることになります。これはお金持ちでも同じで、今はお金持ちでもお金がなかった時期が必ずあるので、運用で失敗するとそこに戻るのではと思ってパニックになってしまいます」

「うちの会社の社長も、若い時はお金がなくて週末にアルバイトをしていたそうで、たまに飲みに連れていってもらうと、あの頃には戻りたくないなと言っています」

「ふむ。このお金が減っていくという恐怖感に打ち克ちながら、投資を継続することが大切なのです。前回、勉強した行動ファイナンスの実験でこういうものがあります。たとえば、私とあなたでジャンケンをして勝った人が1万円もらえて、負けた人が1万円支払うとします。あなたはやりますか?」と先生が尋ねると

「絶対やりません」と隆一は即答した。