習近平が米中首脳会談に「前のめり」だった理由

 中国政府の関係者に話を聞いたところ、中国側は今回の会談に対して「基本的に満足」しているとのことでした。私から見て、それを象徴するのが、中国外交部がプレスリリースに掲載した3枚の写真です。習近平氏がバイデン氏と満面の笑みで写っている写真、両者が真正面から向き合い、両手を重ねるように握手をしている写真、そして右手を前方に挙げている写真です。

 中国政府として、今回の会談にある程度納得し、米中関係の改善と推進に前向きで、かつ両大国が同じ方向を向いて努力をしていくという姿勢を有していなければ、これらの写真を公式に使用、掲載することはありません。過去に日本との首脳会談などでありましたが、中国側が現状や相手国に不満を持っている場合、習氏がしかめ面をしていたり、あるいは無表情の写真を使用、掲載することが少なくありませんでした。

 習氏が会談で言及しているように、中国側はバイデン政権が対中関係で打ち出してきた「四不一無意」(四つのノーと一つの意図せず)を評価し、それを米国側に行動を伴う形で徹底させたいと考えてきました。

「四つのノー」

(1)中国の体制転換を求めない
(2)新たな冷戦を求めない
(3)同盟関係の強化を通じて中国に反対しない
(4)台湾独立を支持しない

「一つの意図しない」

 中国と衝突するつもりはない

 そして、バイデン氏は今回、これらに加えて、米国が「『二つの中国』、『一中一台』を支持しない」、「米中のデカップリング(切り離し)をするつもりはない」、「中国の経済成長を邪魔するつもりはない」、「中国を包囲するつもりはない」とも習氏に伝えています。「四不一無意」が、少なくとも象徴的には「五不四無意」にアップデートされたということであり、中国側は言うまでもなくこの「変化」を称賛、歓迎したでしょう。

 さらに、両首脳はペロシ訪台を受けて棚上げされていた両国間のハイレベル対話を、外交、気候変動、マクロ経済、通商といった分野で再開、推進する旨を確認し、関係修復で合意しました。ブリンケン国務長官の訪中に向けても前向きに準備を進めていくとのことです。

 最後に、今回の米中首脳会談の結果を受けて、中国側の思惑を分析してみたいと思います。

 習近平氏は党大会を経て3期目入りし、しかも「習近平派一色」体制を強固なものにしました。一方で、そんな人事に対する海外政府や市場、世論からの不信感は根深く、中国はこれまで以上に閉鎖的になるのではないかと懸念されて今日に至ります。

 11月15日に発表された経済統計も芳しくありませんでした。例として、10月の工業生産高と小売売上高は前年同月比で5.0%増、0.5%減となり、9月に比べても低迷しています。若干緩和されたとはいえ、ここに来て新型コロナウイルスの感染拡大が悪化する中、「ゼロコロナ」策は堅持される見込みで、経済への悪影響は免れません。外交的孤立も不安要素です。

 そんな中、習近平指導部としては、米国との関係改善を海外だけでなく、国内的にもアピールすることで、中国は世界に開かれた国家、市場、社会なのだというシグナルを発信したかった。裏を返せば、習氏がそれだけ現状と先行きを不安視しているということであり、米中首脳会談の実現に前のめりだった理由だと思われます。

マーケットのヒント

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