副主席・副大統領時代に30時間を共に過ごした「旧知の間柄」

 11月14日(現地時間)、習近平(シー・ジンピン)国家主席とバイデン大統領は、20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が開かれているインドネシアのバリ島で、初の対面での首脳会談を行いました。米中首脳による対面会談の開催は、3年5カ月ぶり。会談が実現するか否かに関しては、市場や世論の関心が極めて高く、今後の世界情勢にも切実な影響を及ぼすでしょう。

 実はこの二人、国家副主席と副大統領の頃からの付き合いで、旧知の間柄にあります。例えば、バイデン氏が2011年に訪中した際、習氏は四川省まで同行し、共に観光名所を回ったり、高校生とバスケットボールをしたりしました。二人で夕食もしています。習氏が2012年に訪米した際にも、バイデン氏と会談しています。習氏が2013年3月に国家主席に就任するまでの間、二人は少なくとも8回会い、約30時間話をしてきたとされます。

 今回の会談はバイデン氏が習氏の宿泊先に出向いて行われましたが、習氏が待つ位置に小走りで向かったり、会談の冒頭で習氏とは旧知の仲であることを強調したりと、バイデン氏はとにかく二人が親密な間柄であるという背景を訴えたかったように見受けられます。

 国家間、特に米国と中国という世界二大国の関係を語る上で、首脳同士の「個人的」関係は軽視できない要素です。「首脳外交」という概念がありますが、国家を代表し、国益を体現する立場にある首脳同士が、一人の人間として互いの性格や人生観、世界観をどれだけ知った上で向き合うかによって、交渉の結末や会談の成果は変わり得るのです。

 それぞれ国家主席、大統領となり、初めて臨んだ今回の習・バイデン会談もその例外ではなかった、というのが私の総括です。

米中首脳会談で何が語られたか?

 会談は、現地時間の午後5時36分に始まりました。2時間近く続いたところで小休止を挟んで再開、午後8時48分に終了しました。同時通訳(首脳会談では往々にして逐次通訳が採用される)で、予定をオーバーする3時間強みっちり議論したことになります。

 習主席は冒頭で、「昨今の中米関係が直面している局面は両国と両国国民の根本的な利益に符合せず、国際社会の期待にも符合しない」とした上で、米中が対話と協力を通じて世界の平和と繁栄に向けて責任ある行動を取っていくべきだと呼び掛けました。中国と米国は政治制度や発展の進路、歴史、文化も異なるけれども、それらを相互に尊重し、平和的共存とウィンウィンの関係を構築していくべきだ、という従来の主張をしました。

 特筆すべきは台湾問題です。

 習氏は、中国が2005年に制定した「反国家分裂法」に言及した上で、米国側の言動がそれに違反した場合、「必ずや法に基づいて行動を取るだろう」と主張し、武力による国家統一を匂わせました。

 と同時に、「台湾問題は中国にとって核心的利益の中の核心であり、中米関係にとって政治的基礎の中の基礎であり、中米関係が超えてはならない最初のレッドラインだ」と強い主張を展開し、自らが率いる政権が台湾問題で妥協するつもりは断じてないという立場をバイデン氏に直接伝えました。

 バイデン氏も、習氏に対して「力による一方的な現状変更は認めない。台湾問題の平和的解決を望む」という従来の立場を伝え、この問題を巡る議論は平行線をたどりました。

 党大会を経て3期目入りを決めた習氏。一方のバイデン氏は中間選挙で善戦し、上院では優勢を確保することが濃厚。習・バイデンという体制がいつまで続くかは依然定かではありませんが、これからの数年間、台湾問題が米中関係にとって最大のリスクとして君臨し続ける局面に、今回の米中首脳会談を経て根本的な変化は見いだせません。

習近平が米中首脳会談に「前のめり」だった理由

 中国政府の関係者に話を聞いたところ、中国側は今回の会談に対して「基本的に満足」しているとのことでした。私から見て、それを象徴するのが、中国外交部がプレスリリースに掲載した3枚の写真です。習近平氏がバイデン氏と満面の笑みで写っている写真、両者が真正面から向き合い、両手を重ねるように握手をしている写真、そして右手を前方に挙げている写真です。

 中国政府として、今回の会談にある程度納得し、米中関係の改善と推進に前向きで、かつ両大国が同じ方向を向いて努力をしていくという姿勢を有していなければ、これらの写真を公式に使用、掲載することはありません。過去に日本との首脳会談などでありましたが、中国側が現状や相手国に不満を持っている場合、習氏がしかめ面をしていたり、あるいは無表情の写真を使用、掲載することが少なくありませんでした。

 習氏が会談で言及しているように、中国側はバイデン政権が対中関係で打ち出してきた「四不一無意」(四つのノーと一つの意図せず)を評価し、それを米国側に行動を伴う形で徹底させたいと考えてきました。

「四つのノー」

(1)中国の体制転換を求めない
(2)新たな冷戦を求めない
(3)同盟関係の強化を通じて中国に反対しない
(4)台湾独立を支持しない

「一つの意図しない」

 中国と衝突するつもりはない

 そして、バイデン氏は今回、これらに加えて、米国が「『二つの中国』、『一中一台』を支持しない」、「米中のデカップリング(切り離し)をするつもりはない」、「中国の経済成長を邪魔するつもりはない」、「中国を包囲するつもりはない」とも習氏に伝えています。「四不一無意」が、少なくとも象徴的には「五不四無意」にアップデートされたということであり、中国側は言うまでもなくこの「変化」を称賛、歓迎したでしょう。

 さらに、両首脳はペロシ訪台を受けて棚上げされていた両国間のハイレベル対話を、外交、気候変動、マクロ経済、通商といった分野で再開、推進する旨を確認し、関係修復で合意しました。ブリンケン国務長官の訪中に向けても前向きに準備を進めていくとのことです。

 最後に、今回の米中首脳会談の結果を受けて、中国側の思惑を分析してみたいと思います。

 習近平氏は党大会を経て3期目入りし、しかも「習近平派一色」体制を強固なものにしました。一方で、そんな人事に対する海外政府や市場、世論からの不信感は根深く、中国はこれまで以上に閉鎖的になるのではないかと懸念されて今日に至ります。

 11月15日に発表された経済統計も芳しくありませんでした。例として、10月の工業生産高と小売売上高は前年同月比で5.0%増、0.5%減となり、9月に比べても低迷しています。若干緩和されたとはいえ、ここに来て新型コロナウイルスの感染拡大が悪化する中、「ゼロコロナ」策は堅持される見込みで、経済への悪影響は免れません。外交的孤立も不安要素です。

 そんな中、習近平指導部としては、米国との関係改善を海外だけでなく、国内的にもアピールすることで、中国は世界に開かれた国家、市場、社会なのだというシグナルを発信したかった。裏を返せば、習氏がそれだけ現状と先行きを不安視しているということであり、米中首脳会談の実現に前のめりだった理由だと思われます。

マーケットのヒント

  1. 習近平、バイデン両首脳が「旧知の間柄」という要素は米中関係を見る上で重要
  2. 米中ハイレベル対話の再開はグッドニュース。台湾問題は引き続き最大のリスク
  3. 習近平は経済低迷、外交的孤立を打破すべく米中首脳会談の実現に前のめりだった