生命保険料控除の注意点(3)配偶者や親族が契約した保険料を負担した場合

 前回に引き続き、年末調整における各種保険料控除の注意点についていくつか解説をしていきます。

 生命保険料控除で大いに気を付けなければならないと筆者が常に感じているのが、「配偶者や親族が契約した生命保険料を本人が負担した場合」です。

 本人自身が契約者となり、その生命保険料を支払っている場合は、当然ながら本人自身の生命保険料控除の対象となります。

 それ以外に、配偶者や親族が契約者となっている生命保険の保険料を、本人が支払った場合でも、その保険料は生命保険料として控除することができるのです。

 実際、筆者の顧問先の年末調整にて保険料控除申告書をみると、配偶者や親族が契約者になっている生命保険料を、生命保険料控除の欄に記載しているケースを時々見受けます。

 もちろん、配偶者や親族が契約した生命保険の保険料を本人が負担した場合、負担した人の生命保険料控除とすること自体は認められていますから何ら問題ありません。

 気を付けなければならないのは、その生命保険の満期保険金や解約返戻金、年金を、保険料を負担していない契約者が受け取った場合、贈与税の対象となってしまうということなのです。

契約者が保険料を負担していなければ保険金や解約返戻金・年金は贈与税の対象

 契約者が受取人となっている生命保険契約や個人年金契約につき、その保険料を契約者ではなく配偶者や親族が負担していた場合、契約者(=受取人)は、保険料を負担することなく保険金や年金を受け取ることになります。

 本来であれば、保険料を負担した人が保険金や年金を受け取るべきですが、保険会社では契約により定められた受取人に保険金や年金を支払います。

 その結果、例えば妻が契約者かつ受取人で、保険料を夫が負担していた場合、妻が保険金や年金を受け取ると、それらは夫から贈与を受けたとされ、贈与税が課税されてしまうのです。

 確かに、夫婦で所得に差があり、妻が契約者である生命保険の保険料も含めて夫の生命保険料控除として申告した方が夫婦トータルでみた税額が軽減できるケースもあるでしょう。また、妻が専業主婦などほとんど収入のない場合は、妻が契約者であっても夫がその保険料を負担せざるを得ないのも事実です。

 しかし税務署側は、妻が契約者である生命保険料につき、妻ではなく夫が生命保険料控除の適用を受けていれば、保険料負担者は夫であると認定します。その保険金や解約返戻金、年金を妻が受け取れば、夫から妻への贈与があったとされてしまうのです。

 実際、富裕層の税務調査や、国税不服審判所での審判、裁判所での裁判などでこの点が問題になることがあります。このとき税務署側は、妻が契約者・受取人である生命保険の保険料につき夫が生命保険料控除として年末調整や確定申告で申告していることを根拠に、妻が受け取った保険金などは夫から妻への贈与に当たると認定しているケースが数多くあるのです。

 ですから、保険料負担者と契約者は一致させておくのが無用な税務トラブルを避けるためには無難ですし、妻に保険金を受け取ってもらいたいが妻に収入がなく保険料を支払えないのであれば、保険料を夫から妻へ贈与する(その場合は当然ながら夫は妻が契約者・受取人の生命保険につき生命保険料控除を申告しないようにする)といった対策も検討しましょう。

国民年金や後期高齢者医療保険、介護保険は所得の高い人にまとめるのが有利

 次に社会保険料控除で節税するためのポイントについてお伝えします。

 会社員の方本人の社会保険料は、給料から天引きされていますので特段の手続きは不要です。

 それ以外に、生計を一にする親族の社会保険料、例えば20歳を過ぎた子供の国民年金保険料を代わりに払ってあげたり、高齢の同居の親の後期高齢者医療保険料を払ってあげた場合は、払った人が社会保険料控除の適用を受けることができます。

 所得が少ない人が自分で支払って社会保険料控除の適用を受けるより、所得が高い人が家族の分も含めて支払ってあげた方が、社会保険料控除による税金軽減の効果が高く、家族全体でみた税額を節減することができます。

 その際、子供の国民年金保険料や、親の後期高齢者医療保険料を、子供・親自身の銀行口座から引き落としする方法で支払われている場合は、子供・親自身が自分で払ったものとされます。

 したがって、負担してあげる人の口座引き落としにするか、現金納付にして負担してあげる人が支払う形にしておきましょう。

 なお、確定拠出年金の掛け金は社会保険料控除ではなく小規模企業共済等掛金控除の対象ですが、こちらは本人以外の配偶者・親族の分を負担しても、本人の控除対象とはなりません。

 例えば収入のない専業主婦の方がiDeCoに加入し、その掛け金を夫が負担し、それを夫の小規模企業共済等掛金控除に含めることはできませんので注意してください。

 知っていれば得をする、知らなければ気づかぬうちに損をするのが税金の世界。ぜひ興味を持って積極的に学ぶようにしてくださいね。