現在は中長期感覚で投資単位の低い高配当利回り銘柄に注目したい場面

 9月末を通過することによって、いったんは配当権利取りの動きが沈静化するため、10月以降は、相対的に高配当利回り銘柄のパフォーマンスは低下する可能性があります。

 ただ、前述したように、9月相場は日米ともに年間で最も株価パフォーマンスが低い月となっているため、今後は相場全体の底上げが期待できるでしょう。投資初心者が中長期的な感覚で投資を行うには、格好のタイミングとも考えられます。

 株価水準が低い高配当利回り銘柄の中で、今期の堅調な業績推移が見込める銘柄をピックアップしました。また、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)での投資枠を余すところなく使い切りたいといった意識も、年末が近づくこの局面では強まってくるでしょう。

 NISAでは配当金に対する税金もかかりません。こうした意味合いから考えると、現在は、投資単価の低い高配当利回り銘柄への物色に注目すべき場面であるといえます。

 下表は、配当利回りが3.5%以上ある銘柄の中で、株価が1,000円未満、時価総額1,000億円以上、今期が営業増益予想のもののリストになっています。1年弱をメドとした中長期的な感覚で、着実な投資収益が期待できるものと考えます。 

(表)10万円未満で買える高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り 9月16日終値 時価総額 今期営業増益率
1802 大林組 4.30 976.0 7,042 143.6
4095 日本パーカライジング 4.19 955.0 1,266 12.2
4902 コニカミノルタ 4.06 493.0 2,478 黒転
6471 日本精工 3.91 768.0 4,234 35.9
8593 三菱HCキャピタル 4.52 686.0 10,063 10.7
注:配当利回り、今期営業増益率の単位は%、時価総額の単位は億円
注:三菱HCキャピタルの増益率は純利益

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが3.5%以上(9月16日終値)
  2. 株価が1,000円未満(9月16日終値)
  3. 時価総額が1,000億円以上
  4. 今期営業利益が増益予想(営業利益計画未公表銘柄は純利益が増益予想)
  5. 銀行株を除く

1 大林組(1802・東証プライム)

 大手ゼネコンの一角となります。相対的に、関西圏で強みがあり、公共工事のウエートが高いとされています。六本木ヒルズや東京スカイツリーなどを手がけました。

 ほか、PFI事業では国内トップクラスの実績があり、新領域事業では水素発電、地熱発電、風力発電など幅広く再生可能エネルギー事業に注力しています。1964年にタイ事務所をいち早く開設するなど、海外展開も積極的に推進しています。

 2023年3月期第1四半期営業利益は84.3億円で前年同期比41.7%減益となりました。建築事業の売上高が減少したほか、不採算案件の工事進捗(しんちょく)などによって工事利益率が低下したもようです。一方、通期予想は1,000億円、前期比2.4倍の予想を据え置いています。  

 前期は国内の大規模工事複数案件で工事損失引当金を計上しており、これが一巡することが大幅回復の背景となります。また、北米やアジアでコロナ禍からの回復が進むことで、海外事業も増収増益となる見通しです。年間配当金は前期比10円増配となる42円を計画しています。

 配当利回り水準はゼネコン大手4社の中で最も高く、唯一4%超の水準となっています。PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)の水準を合わせてみても、バリュエーションは最も割安と判断されるでしょう。

 中期計画では、2022年度、2023年度は営業利益1,000億円をボトムラインにするとしており、2024年度以降をその後の成長に取り組むステージとし、事業変革を進めていくようです。3割以上を国内建設以外の事業で稼ぐ強靭(きょうじん)な企業体質を目指すとしており、そのためには、海外事業の拡大がカギを握ることになりそうです。

2 日本パーカライジング(4095・東証プライム)

 金属を腐食や摩耗から守るための表面処理剤を主力とする化学メーカーです。自動車用、鉄鋼用ともに60%程度のシェアを保有しているとみられます。海外でも10カ国以上でネットワークを確立しています。

 表面処理剤を提供する薬剤事業のほか、防錆加工や熱処理加工を行う受託加工事業、装置・設備事業を手掛けています。医療機器や産業機材などを扱うライフサイエンス事業にも進出しています。

 2023年3月期第1四半期営業利益は28.6億円で前年同期比31.0%減益となっています。主要ユーザーである自動車業界の減産長期化の影響で、処理設備や塗装設備などの販売が減少したほか、自動車メーカーの生産低調で受託加工も伸び悩んでいます。

 コスト面では原材料費の上昇も響いているようです。一方、通期営業利益見通しは150億円で前期比12.2%増を据え置いています。今後の自動車業界での生産正常化、為替の円安進行などがプラスに効いてくる見込みです。年間配当金は前期並みの40円を計画しています。

 5月には新中期計画を発表し、2025年3月期数値目標としては営業利益169億円を掲げています。また、2030年に向けた成長戦略では、表面処理薬剤販売の分野で、世界市場売り上げシェアトップになることもうたっています。

 素材の表面処理加工技術によっては、エネルギー効率の向上や環境負荷の低減などを実現する可能性も高く、今後の技術開発の進展が期待されるところです。とりわけ、まずは自動車電動化に伴う取り扱い製品の拡充や付加価値化進展に注目です。