米国のインフレ懸念が再燃、グロース株中心に日経平均は大幅反落

 直近1カ月(8/19~9/16)の日経平均株価は4.7%の下落となりました。8月17日高値2万9,222円後は調整色が強まり、9月7日には7月20日以来の2万7,500円割れとなり、一時2万7,268円にまで下落しました。その後はいったん反発して、9月12日には再度の2万8,500円超えとなりましたが、9月16日にかけて再度大きく下落する状況となっています。

 期間中のダウ工業株30種平均は8.6%の下落となっており、相対的な日本株の底堅さが続く状況ではあります。

 期間中前半は、FRB(米連邦準備制度理事会)高官のタカ派的な発言が相次いだことで、米金融引き締めへの警戒感が強まることとなりました。

 8月26日には、ジャクソンホール会合においてジェローム・パウエルFRB議長の講演が行われましたが、ここでも、物価重視の姿勢が明示され、9月に0.75%の利上げを行う可能性も改めて言及するなど、想定以上のタカ派姿勢と捉えられました。

 その後も、日本株にとっては為替の円安進行や政府の水際対策緩和などが固有の支援材料になりましたが、FRBの金融引き締め強化への懸念が続いたほか、中国での都市封鎖の拡大や欧州のエネルギー問題への懸念もくすぶる中で、下値模索の動きが続きました。

 9月7日以降は、ラエル・ブレイナードFRB副議長が過剰な利上げリスクに言及して米長期金利上昇が沈静化したほか、ECB(欧州中央銀行)の大幅利上げ決定によるあく抜け感などで、一時は急反発に転じました。

 しかし、9月13日に発表された米CPI(消費者物価指数)が市場予想に反して前月から伸び率が加速化する状況となり、次回FOMC(米連邦公開市場委員会)で利上げ幅が1.00%にまで膨らむとの見方も台頭、一転して、再度株価は調整に転じてきています。

 米国の長期金利上昇懸念が支配したこの期間の下落率上位には、グロース株が多く名を連ねる結果となりました。

 レーザーテック(6920)アドバンテスト(6857)東京エレクトロン(8035)などの半導体製造装置大手各社がそろって10%超の下落となったほか、MonotaRO(3064)キーエンス(6861)などの代表的グロース銘柄も大幅安、中小型グロース株でも、JMDC(4483)ラクス(3923)メルカリ(4385)などの代表格で下げが目立つものが多く散見されています。

 また、バリュー株の代表格である川崎汽船(9107)商船三井(9104)などの海運株も10%超の大幅下落となりました。これは船舶需給の緩和に伴うコンテナ船市況の下落が背景となります。来年度の業績悪化、それに伴う配当水準の切り下がりが織り込まれる状況となったようです。

 ほか、業績上方修正を発表した三井ハイテック(6966)も、グロース株安の地合いの中で出尽くし感が強まりました。半面、8月の月次好調や経済活動正常化期待などで、H2Oリテイリング(8242)三越伊勢丹ホールディングス(3099)高島屋(8233)J.フロント リテイリング(3086)など、百貨店株の強い動きが目立ちました。

 また、HIS(9603)日本航空(9201)JR東日本(9020)なども、水際対策緩和期待で買われました。

9月は押し目買いのタイミング、日本株への資金シフトの動きも期待

 中長期の統計でみると、日経平均、NYダウともに9月の月間パフォーマンスが年間で最も低いことが知られています。逆に言うと、現在は中長期観点から見た買い場であると判断できます。

 どうして9月のパフォーマンスが悪化するのか確かな背景はわかりませんが、次回FOMCにおける1.00%の大幅利上げ懸念なども織り込まれている状況下、今年もこうしたアノマリーは当てはまる可能性が高いと考えられます。

 とりわけ、IMF(国際通貨基金)の世界経済見通しでは、2023年の成長率予測は、米国の1.0%(2022年2.3%)、ユーロ圏の1.2%(同2.6%)に対して、日本は1.7%(同1.7%)となっています。

 欧米と比較して日本の成長率が高くなる予想であり、これは外国人投資家の日本株への資金シフトを想定させます。

 IMFでは4月と10月に世界経済見通しを発表しますが、政府の水際対策の緩和などによる経済活動の正常化進展、円安によるプラス効果を考えると、10月の見通しでは一段の日本の成長率引き上げも期待できます。これが日本株買いのきっかけにつながっていく可能性を想定しておきたいところです。

 目先の注目イベントとしては、9月20~21日に開催される米FOMCが挙げられます。利上げ幅が0.75%となるか、1.00%となるかは見方が分かれるところですが、当面は大幅な利上げが継続する可能性が高いため、どちらになっても株価の行方が大きく左右されることはないでしょう。

 むしろ、ドットチャート(FOMCメンバーが適切と考える政策金利の水準)がどこまで上方修正されてくるのかが注目されるところです。6月時点では、2022年末が3.375%、2023年末が3.75%でありましたが、今回はそれぞれ0.5%程度ずつ引き上げられるとみられます。想定内の上方修正でとどまれば、今後のあく抜け余地が広がることになるでしょう。

 ほか、10月の注目イベントとしては、米中間選挙における大統領候補者討論会、10月16日の中国共産党大会などが挙げられるでしょう。

 米インフレ懸念が沈静化するにはまだ時間がかかるとみられ、グロース株の本格回復時期はずれ込みそうです。足元で株価が上昇基調にはありますが、経済活動再開に伴うリオープニング関連銘柄が引き続き有望でしょう。

 中でも、水際対策緩和での拡大が期待されるのがインバウンド関連となりそうです。日本への旅行ニーズが一気に表面化するとともに、足元での急激な円安進行により、インバウンド市場は短期的に大きな膨らみが見込まれます。

 渡航制限撤廃による中国からの旅行者増加などは今後の期待材料として残るため、出尽くし感が強まる状況でもないでしょう。とりわけ、マスク着用によって需要が抑えられていた化粧品などの回復が強まると期待されます。

 ほか、コロナ禍一巡によるサプライチェーン問題の解消が各産業界で表面化してくるとみられます。この観点では、円安メリットも最大限享受できる自動車・自動車部品メーカーも注目業界となるでしょう。ただ、同業界は第2四半期の決算も想定より停滞が続くとみられ、中間決算発表後がよりよい投資タイミングと考えられます。

現在は中長期感覚で投資単位の低い高配当利回り銘柄に注目したい場面

 9月末を通過することによって、いったんは配当権利取りの動きが沈静化するため、10月以降は、相対的に高配当利回り銘柄のパフォーマンスは低下する可能性があります。

 ただ、前述したように、9月相場は日米ともに年間で最も株価パフォーマンスが低い月となっているため、今後は相場全体の底上げが期待できるでしょう。投資初心者が中長期的な感覚で投資を行うには、格好のタイミングとも考えられます。

 株価水準が低い高配当利回り銘柄の中で、今期の堅調な業績推移が見込める銘柄をピックアップしました。また、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)での投資枠を余すところなく使い切りたいといった意識も、年末が近づくこの局面では強まってくるでしょう。

 NISAでは配当金に対する税金もかかりません。こうした意味合いから考えると、現在は、投資単価の低い高配当利回り銘柄への物色に注目すべき場面であるといえます。

 下表は、配当利回りが3.5%以上ある銘柄の中で、株価が1,000円未満、時価総額1,000億円以上、今期が営業増益予想のもののリストになっています。1年弱をメドとした中長期的な感覚で、着実な投資収益が期待できるものと考えます。 

(表)10万円未満で買える高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り 9月16日終値 時価総額 今期営業増益率
1802 大林組 4.30 976.0 7,042 143.6
4095 日本パーカライジング 4.19 955.0 1,266 12.2
4902 コニカミノルタ 4.06 493.0 2,478 黒転
6471 日本精工 3.91 768.0 4,234 35.9
8593 三菱HCキャピタル 4.52 686.0 10,063 10.7
注:配当利回り、今期営業増益率の単位は%、時価総額の単位は億円
注:三菱HCキャピタルの増益率は純利益

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが3.5%以上(9月16日終値)
  2. 株価が1,000円未満(9月16日終値)
  3. 時価総額が1,000億円以上
  4. 今期営業利益が増益予想(営業利益計画未公表銘柄は純利益が増益予想)
  5. 銀行株を除く

1 大林組(1802・東証プライム)

 大手ゼネコンの一角となります。相対的に、関西圏で強みがあり、公共工事のウエートが高いとされています。六本木ヒルズや東京スカイツリーなどを手がけました。

 ほか、PFI事業では国内トップクラスの実績があり、新領域事業では水素発電、地熱発電、風力発電など幅広く再生可能エネルギー事業に注力しています。1964年にタイ事務所をいち早く開設するなど、海外展開も積極的に推進しています。

 2023年3月期第1四半期営業利益は84.3億円で前年同期比41.7%減益となりました。建築事業の売上高が減少したほか、不採算案件の工事進捗(しんちょく)などによって工事利益率が低下したもようです。一方、通期予想は1,000億円、前期比2.4倍の予想を据え置いています。  

 前期は国内の大規模工事複数案件で工事損失引当金を計上しており、これが一巡することが大幅回復の背景となります。また、北米やアジアでコロナ禍からの回復が進むことで、海外事業も増収増益となる見通しです。年間配当金は前期比10円増配となる42円を計画しています。

 配当利回り水準はゼネコン大手4社の中で最も高く、唯一4%超の水準となっています。PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)の水準を合わせてみても、バリュエーションは最も割安と判断されるでしょう。

 中期計画では、2022年度、2023年度は営業利益1,000億円をボトムラインにするとしており、2024年度以降をその後の成長に取り組むステージとし、事業変革を進めていくようです。3割以上を国内建設以外の事業で稼ぐ強靭(きょうじん)な企業体質を目指すとしており、そのためには、海外事業の拡大がカギを握ることになりそうです。

2 日本パーカライジング(4095・東証プライム)

 金属を腐食や摩耗から守るための表面処理剤を主力とする化学メーカーです。自動車用、鉄鋼用ともに60%程度のシェアを保有しているとみられます。海外でも10カ国以上でネットワークを確立しています。

 表面処理剤を提供する薬剤事業のほか、防錆加工や熱処理加工を行う受託加工事業、装置・設備事業を手掛けています。医療機器や産業機材などを扱うライフサイエンス事業にも進出しています。

 2023年3月期第1四半期営業利益は28.6億円で前年同期比31.0%減益となっています。主要ユーザーである自動車業界の減産長期化の影響で、処理設備や塗装設備などの販売が減少したほか、自動車メーカーの生産低調で受託加工も伸び悩んでいます。

 コスト面では原材料費の上昇も響いているようです。一方、通期営業利益見通しは150億円で前期比12.2%増を据え置いています。今後の自動車業界での生産正常化、為替の円安進行などがプラスに効いてくる見込みです。年間配当金は前期並みの40円を計画しています。

 5月には新中期計画を発表し、2025年3月期数値目標としては営業利益169億円を掲げています。また、2030年に向けた成長戦略では、表面処理薬剤販売の分野で、世界市場売り上げシェアトップになることもうたっています。

 素材の表面処理加工技術によっては、エネルギー効率の向上や環境負荷の低減などを実現する可能性も高く、今後の技術開発の進展が期待されるところです。とりわけ、まずは自動車電動化に伴う取り扱い製品の拡充や付加価値化進展に注目です。

3 コニカミノルタ(4902・東証プライム)

 オフィス⽤A3カラーMFP(複合機)で高シェア、東欧州ではトップ、インドでも第2位の位置づけです。こうした事務機器が売上の過半を占めるほか、商業印刷市場向けのカラーデジタル印刷機でもグローバルでトップクラスのシェアを保有しています。

 医療用画像診断システム、計測器や液晶用偏光板保護フィルムなどの精密機器も手掛けています。光源色計測器、液晶テレビ用フィルムなどでもトップ級の販売シェアとなっています。1円の円安ユーロ高による為替感応度は4億円ほどとみられます。

 2023年3月期第1四半期営業損益は110億円の赤字で、前年同期比141億円の損益悪化となっています。上海ロックダウンの影響が大きく響いたほか、半導体など部材需給の逼迫(ひっぱく)、物流輸送期間の長期化などのマイナス影響も受けました。

 ただ、6月以降は売り上げも回復しており、通期では150億円の黒字計画、前期比423億円の損益改善が見込まれています。構造改革効果なども下期にかけて顕在化してくるとみられます。年間配当金は前期比10円減配の20円となっています。

 リモートワークの普及や働き方改革によるオフィス市場の縮小、ペーパーレス化による印刷機の需要縮小など、構造的な懸念材料はありますが、PBRは0.5倍を大きく割り込むなど株価の割安感は非常に強い状況です。

 足元で収益が急回復していることに加えて、2023年はオフィスビルが大量に竣工することで、少なくともオフィス機器の需要にとってはプラスに働くと考えられます。短期的な業績急回復を評価する余地は残ると考えられます。また、規制緩和進展による遠隔医療の普及などは、医療用画像診断システムへの支援材料になるでしょう。

4 日本精工(6471・東証プライム)

 ベアリングの国内最大手企業で、世界でも第3位の位置づけとなっています。自動車用や産業機械用のベアリングが主力製品で、そのほか、電動パワステやトランスミッションなどの自動車部品、ボールねじやリニアガイドなどの精機製品も手掛けています。

 世界200地域に拠点を有しています。中期計画では、2027年3月期に売上高1兆円以上、営業利益1,000億円を目標としており、特にステアリング事業の収益回復に向けた施策に取り組んでいく方針です。

 2023年3月期第1四半期営業利益は45.4億円で前年同期比49.6%減益となっています。サプライチェーン問題や中国ゼロコロナ政策の影響が自動車向け事業で大きく受けたほか、鋼材、海上運賃、電力料金などのインフレ進行も響きました。

 一方、通期では400億円、前期比35.9%増となる見通しです。産業機械事業の売上拡大が見込まれるほか、自動車事業の底打ちも想定しています。ちなみに、第1四半期業績はほぼ計画通りであったもようです。年間配当金は前期比5円増の30円を計画しています。

 他のベアリング大手2社の配当利回りは1.7%、2.1%であり、相対的に見て配当利回りは極めて高水準と指摘できます。加えて、年度後半以降の自動車生産本格回復、足元での急激な円安進行から、自動車関連業界の先行きが期待できる中、自動車部品業界の一角と位置付けられる同社なども、徐々に水準訂正の動きが強まるものと考えられます。

 中期計画期間中は総還元性向50%程度を目指すとしているので、今後も高水準の配当実施や積極的な自社株買いなどが期待できそうです。

5 三菱HCキャピタル(8593・東証プライム)

 三菱UFJグループでリース業界の最大手企業、営業資産残高は9兆円強の水準になっています。2021年4月に三菱UFJリースと日立キャピタルが統合して発足しました。リース、割賦・貸付などのカスタマーソリューション事業が主力で、航空事業、不動産事業、ロジスティック事業、環境・エネルギー・インフラ事業など幅広く展開しています。

 2026年3月期までの中期計画では、ROE(自己資本利益率)10%程度の計数目標、配当性向40%程度などのイメージが示されています。

 2023年3月期第1四半期営業利益は405億円で前年同期比95.2%増と大幅増益になっています。欧米子会社を中心とした海外事業の伸長や貸倒関連費用の減少、不動産リースに係る大口売却益の計上などが押し上げ要因となりました。

 一方、前年同期に計上した政策保有株式の売却益が一巡したことで、純利益は微減益となっています。通期計画は純利益のみ公表しており、1,100億円、前期比10.7%増の見通しです。年間配当金は前期比3円増配となる31円を計画しています。

 世界的な経済活動の正常化に伴い、今後は航空機リース事業などの回復がけん引役となってきそうです。

 また、再生可能エネルギーの普及拡大により、環境エネルギー事業も着実な成長が期待できます。業績は当面安定した拡大が続く可能性が高く、高い配当性向目標から、それに伴う配当成長も期待できます。三菱UFJグループの金融関連企業でもあり、長期投資に向けての買い安心感が強い銘柄と捉えられるでしょう。