「習近平派」VS「実力派」?最有力候補4人の人物像を洗い出す

 年齢、中央と地方におけるキャリアという観点から新人候補の顔ぶれを見てきましたが、私が今回の党大会で政治局常務委員入りする候補として注目している新人が、上記3人に加えて、現上海市書記の李強(リー・チャン)氏。この4人の人物像を詳細に解説しますが、ここで注目したいのが図表の最終項目である「習近平との接点」です。

丁薛祥

 上海市を基盤に、材料に関する政府系研究所で頭角を現し、上海市政府幹部までのし上がった人物。習氏が2007年に半年間だけ上海市で書記を歴任した期間、習氏の秘書として信頼を勝ち取り、その後習氏の中央入りに合わせて上京。中央弁公室主任兼国家主席弁公室主任にまで成り上りました。習氏の国内外における視察や会議にも常に同行する、習氏にとっての側近中の側近と言えます。

李強

 浙江省生まれ、同省育ち、同省を政治的地盤として頭角を現した人物。習氏は2002~2007年の期間を浙江省で副書記、省長、書記、人大常務委員会主任、軍第一書記として過ごしています。習氏が最高指導者へと上り詰める上で不可欠なキャリアを形成したのが浙江省ですが、この5年間、特に2004~2007年、李氏は浙江省事務局長として習氏を支えています。浙江省時代、習氏直属の部下、右腕として仕えたのが李氏と言えます。

陳敏爾

 李氏同様、浙江省生まれ、同省育ち、同省を政治的地盤として頭角を現した人物。陳氏のキャリアを語る上で外せないのが「宣伝」です。2002~2007年、陳氏は浙江省の宣伝部長として、習氏の同省における宣伝工作を支えただけでなく、習氏が同省の党機関紙に寄稿していた連載コラムの「ゴーストライター」を務めています。要するに、習氏が考えていること、言いたいことを誰よりも的確に理解し、それを言語化して発信できるのが陳氏ということです。

胡春華

 中央、地方を含め為政者としての経験が断然豊富な人物。改革開放後の1979年に北京大学に入学したエリート中のエリートで、卒業後は共産主義青年団の幹部候補としてチベット自治区へ赴任、同地で党副書記を務めるまでの23年間勤務しました。その後河北省の副書記、省長を経て、内モンゴル、広東省で党書記を歴任、現在の国務院副総理まで、キャリアを一気に駆け上がってきたと言えます。胡錦涛(フー・ジンタオ)・前総書記、李克強(リー・カチャン)現国務院総理からの信頼も厚いと言えます。

 4人の候補の特徴を整理すると、三つのグループに色分けできます。

(1)習近平氏が最も信頼する最大の側近である丁薛祥
(2)習氏が地方キャリアを盤石にした浙江省時代を共に過ごした李強と陳敏爾
(3)中央、地方を含めキャリアが最も豊富で、最年少の胡春華

 私自身は、日本や海外のメディアが中国政治を分析する際に往々にして取る「習近平派」、「上海閥」、「共青団派」といった派閥区分に対しては懐疑的で、特に習近平新時代に入ってからの中国政治を理解する上であまり役に立たないどころか、弊害すら伴うと考えています。

 一方で、次期政治局常務委員の人選を占う上で、「習近平にどれだけ信頼されているか」は極めて重要な尺度になります。ここで言う信頼には、忠誠心、能力、実績、政治信条、バランス感覚、人格などあらゆる要素が関わってきます。

 その前提で、あえて上記4人を二つのグループに分けると、丁氏、李氏、陳氏の3人は習氏が昔からよく知る、故に信頼する「習近平派」であり、胡氏は「非習近平派」という整理が可能です。それでも、習氏が政治的忠誠心という意味で胡氏を信頼できると判断すれば、胡氏の為政者としての能力と実績は際立っていますから、次期政権の要職に抜てきする可能性は大いにあると言えるでしょう。

マーケットのヒント

  1. 党大会で誰が政治局常務委員に入るかで「習近平第3次政権」の在り方が左右される
  2. 有力候補の顔ぶれや人物像を知ることは中国の発展の方向性を把握する上で役立つ
  3. 「忠誠心×能力=信頼」というバランス型の指導部新体制が「健全な中国」を担保する