「第3次習近平政権」で問われる政治の風通し

 今回も10月16日に開幕する5年に1度の党大会についてみていきます。先週のレポート「中国共産党大会、新体制人事を巡る五つの焦点」のポイント3「政治局常務委員から誰が去り、誰が入るか」において、党大会の閉幕日(10月22日の見込み)にお披露目になる新指導層、すなわち中央政治局常務委員に、どの新人が何人入るかが重要と書きました。

「新人」を巡っては、基本的に現政治局委員25人の中で、現常務委員(7人)を除いた18人のうち、年齢的に資格のある(党大会開催時で67歳以下)9人が候補になります。この9人のうち、誰が入るかによって、「第3次習近平政権」の権力基盤に変化が生じ得るという意味で、党大会人事を見る上で極めて重要な焦点になります。

 端的に言えば、限られた常務委員の中で、習近平(シー・ジンピン)に近い人物が多くを占めれば、習氏が新体制において自らの権力基盤や求心力を強化しやすくなります。一方、側近がいわゆる「イエスマン」だけで固められれば、国家の盛衰や存亡を左右するほどの大きな意思・政策決定をする政治局常務委員会において、習氏に対するチェック・アンド・バランスの機能が働きにくくなります。大きな政策ミスや判断ミスが起きやすい土壌が生まれやすくなるということです。

 権力の肥大化が権力の暴走を生み、風通しが悪くなる過程でチェック・アンド・バランス機能が喪失した結果、国家が破綻に追い込まれた実例は歴史的に数え切れないほどあります。私たちにとっては、まさに戦前の日本が最も身近で教訓に満ちた実例と言えるでしょう。

新常務委員候補9人一覧表。鍵を握る年齢と過去の政治キャリア

 今回の党大会で新人として常務委員入りする資格のある(年齢制限は67歳以下というのが慣例)9人の人物像を一覧表にしてみました。

氏名  年齢  現職 地方書記経験 中央閣僚級経験   出身/地盤/習との接点
丁薛祥  60 中央弁公庁主任 無  中弁副主任  江蘇/上海/有
李希 66  広東省書記 遼寧、広東 無  甘粛/甘粛/無
李強 63 上海市書記 江蘇、上海   無   浙江/浙江/有
李鴻忠 66 天津市書記 湖北、天津  無   山東/広東/無
陳全国 66  中央農村小組副組長 新疆、西蔵 河南/河南/無
陳敏爾  62 重慶市書記  貴州、重慶 無   浙江/浙江/有
胡春華   59  国務院副総理 内蒙古、広東  共青団書記、副総理 湖北/西蔵/無
黄坤明 65   中央宣伝部長 無   宣伝   福建/浙江/有
蔡奇 66   北京市書記  北京   国安委副主任 福建/浙江/有

 それぞれの項目、およびそれらを設けた背景・理由について説明します。

 まず、全員が67歳以下であるのは明白ですが、中国の今後の体制を考える上でより重要なのが、次回の党大会が開かれる2027年の時点で、依然67歳以下の人物が誰であるかです。

 この基準からすると、該当するのは丁薛祥(ディン・シュエシャン)、陳敏爾(チェン・ミンアー)、胡春華(フー・チュンファ)の3人であることが分かります。その政治キャリアから見ても、この3人は今回の党大会で常務委員入りする可能性のある新人候補であり、かつ2027年以降の指導層を率いていく、場合によっては「ポスト習近平」体制を担っていく可能性のある要チェック人物だと見なすことができます。

 次に、政治局常務委員入りする上で、特に総書記、国家主席、国務院総理といった最重要要職を担う上で重要になるのが、常務委員に入るまでにどんな政治的キャリアを構築してきたかであり、特に地方の党委員会で書記(トップ)を(何回)歴任したことがあるかどうかです。その上で、中央でも閣僚級の要職に就いた経験があればなおいい。

 この基準でみると、最も経験が豊富なのは、地方で二つ、中央で二つのポストを歴任している胡氏であるのは明白です。前述の丁氏と陳氏に関して言えば、陳氏は地方での経験は十分。丁氏は若干見劣りするものの、現在中央弁公庁主任という日本の官房長官に相当する重要ポストを任されており、後述するように、習氏にとっての側近中の側近です。

 私から見て、習近平―丁薛祥の関係は、日本で歴代最長政権をけん引した安倍晋三―菅義偉の関係を彷彿(ほうふつ)とさせるものです。

「習近平派」VS「実力派」?最有力候補4人の人物像を洗い出す

 年齢、中央と地方におけるキャリアという観点から新人候補の顔ぶれを見てきましたが、私が今回の党大会で政治局常務委員入りする候補として注目している新人が、上記3人に加えて、現上海市書記の李強(リー・チャン)氏。この4人の人物像を詳細に解説しますが、ここで注目したいのが図表の最終項目である「習近平との接点」です。

丁薛祥

 上海市を基盤に、材料に関する政府系研究所で頭角を現し、上海市政府幹部までのし上がった人物。習氏が2007年に半年間だけ上海市で書記を歴任した期間、習氏の秘書として信頼を勝ち取り、その後習氏の中央入りに合わせて上京。中央弁公室主任兼国家主席弁公室主任にまで成り上りました。習氏の国内外における視察や会議にも常に同行する、習氏にとっての側近中の側近と言えます。

李強

 浙江省生まれ、同省育ち、同省を政治的地盤として頭角を現した人物。習氏は2002~2007年の期間を浙江省で副書記、省長、書記、人大常務委員会主任、軍第一書記として過ごしています。習氏が最高指導者へと上り詰める上で不可欠なキャリアを形成したのが浙江省ですが、この5年間、特に2004~2007年、李氏は浙江省事務局長として習氏を支えています。浙江省時代、習氏直属の部下、右腕として仕えたのが李氏と言えます。

陳敏爾

 李氏同様、浙江省生まれ、同省育ち、同省を政治的地盤として頭角を現した人物。陳氏のキャリアを語る上で外せないのが「宣伝」です。2002~2007年、陳氏は浙江省の宣伝部長として、習氏の同省における宣伝工作を支えただけでなく、習氏が同省の党機関紙に寄稿していた連載コラムの「ゴーストライター」を務めています。要するに、習氏が考えていること、言いたいことを誰よりも的確に理解し、それを言語化して発信できるのが陳氏ということです。

胡春華

 中央、地方を含め為政者としての経験が断然豊富な人物。改革開放後の1979年に北京大学に入学したエリート中のエリートで、卒業後は共産主義青年団の幹部候補としてチベット自治区へ赴任、同地で党副書記を務めるまでの23年間勤務しました。その後河北省の副書記、省長を経て、内モンゴル、広東省で党書記を歴任、現在の国務院副総理まで、キャリアを一気に駆け上がってきたと言えます。胡錦涛(フー・ジンタオ)・前総書記、李克強(リー・カチャン)現国務院総理からの信頼も厚いと言えます。

 4人の候補の特徴を整理すると、三つのグループに色分けできます。

(1)習近平氏が最も信頼する最大の側近である丁薛祥
(2)習氏が地方キャリアを盤石にした浙江省時代を共に過ごした李強と陳敏爾
(3)中央、地方を含めキャリアが最も豊富で、最年少の胡春華

 私自身は、日本や海外のメディアが中国政治を分析する際に往々にして取る「習近平派」、「上海閥」、「共青団派」といった派閥区分に対しては懐疑的で、特に習近平新時代に入ってからの中国政治を理解する上であまり役に立たないどころか、弊害すら伴うと考えています。

 一方で、次期政治局常務委員の人選を占う上で、「習近平にどれだけ信頼されているか」は極めて重要な尺度になります。ここで言う信頼には、忠誠心、能力、実績、政治信条、バランス感覚、人格などあらゆる要素が関わってきます。

 その前提で、あえて上記4人を二つのグループに分けると、丁氏、李氏、陳氏の3人は習氏が昔からよく知る、故に信頼する「習近平派」であり、胡氏は「非習近平派」という整理が可能です。それでも、習氏が政治的忠誠心という意味で胡氏を信頼できると判断すれば、胡氏の為政者としての能力と実績は際立っていますから、次期政権の要職に抜てきする可能性は大いにあると言えるでしょう。

マーケットのヒント

  1. 党大会で誰が政治局常務委員に入るかで「習近平第3次政権」の在り方が左右される
  2. 有力候補の顔ぶれや人物像を知ることは中国の発展の方向性を把握する上で役立つ
  3. 「忠誠心×能力=信頼」というバランス型の指導部新体制が「健全な中国」を担保する