<参考>キャッシュフロー表の見方、解説
アナリストはなんのためにキャッシュフロー表を見るのか
上場企業は決算発表で、財務3表を公表します。財務3表とは、【1】損益計算書、【2】バランスシート、【3】キャッシュフロー表の三つのことです。主な役割をざっくり説明すると、
【1】損益計算書:前年度の売上高、最終損益がいくらになったか報告
【2】バランスシート:前年度末の総資産・負債・純資産(資本)がいくらになったか報告
【3】キャッシュフロー表:前年度、現金がいくら入っていくら出ていったか、それで現金残高がどう変化したか報告
個人投資家には、【1】損益計算書しか見ない人が多いそうです。あるいは【1】損益計算書と【2】バランスシートまでは見るけれど、【3】キャッシュフロー表までは見ないという人が多いと聞いています。
一方、機関投資家のアナリストや金融機関は、キャッシュフロー表をよくみています。なんのために見るのでしょうか?
ひとことで言えば、キャッシュフロー表には企業のもっとも本源的な「稼ぐ力」が表れるので、そこをしっかり見るということです。
キャッシュフロー表は、言い方を変えると原始的「現金会計」
キャッシュフロー表とは、言い方を変えれば「現金会計」です。1年間の会計期間を経て、現金がいくら増えたか減ったか、負債(借金)がいくら増えたか減ったか、それだけで1年間の事業の成果をはかります。家計簿と同じ。同好会や非営利法人の会計とも同じです。現金収入と現金支出をしっかり記録して、次年度に引き継ぐ現金残高がいくら増えたか減ったか計算します。江戸時代の商売も、基本的には現金会計でした。そういう意味で、キャッシュフロー表はある意味、きわめて原始的な会計です。
一方、損益計算書は、現金の出入りにとらわれることなく、いつ利益や損失が発生したかを計測することで、ビジネスの成果をはかります。現金の出入りとは異なる、発生ベースの損益がわかるのが、損益計算書のすぐれたところです。
例えば、食事の代金を支払っても、機械購入の代金を支払っても、現金会計では現金支出があったというだけで同じです。ところが、近代会計では、食事の代金は費用になりますが、機械購入は設備投資なのですぐに費用にはなりません。機械を使って生産活動を行う全期間にわたって少しずつ費用化していきます。
普通に考えれば、原始的なキャッシュフロー(現金会計)よりも、近代会計で計算された損益計算書の方が役に立ちます。投資家の多くが、損益計算書は見るけれどキャッシュフロー表は見ないのは、そのためです。
平常時は損益計算書が重要だが、非常時はキャッシュフローの方が重要
近代会計が正常に機能するのは、あくまでも「平常時」です。財務や業績が急激に悪化する「非常時」は、会計上の利益の信頼性が急速に低下します。
例えば2008年9月のリーマンショックのような経済危機が起こると、減損といわれる大きな損失を計上する企業が増えます。経済環境が変わることで、過去に行った設備投資が過剰投資だったことが明らかになったりするからです。今後10年にわたって価値を生むと思っていた設備が、もはや何の価値も生まない不良資産だとわかれば、その時バランスシートに計上されていた残存価値を全て損失処理する必要が生じます。
非常時に力を発揮するのが、現金会計です。現金会計であれば、非常時に減損のような大きなマイナスが急に発生することはありません。
「キャッシュは事実、会計は意見」といわれることもあります。損益計算書に出る「会計上の利益」は、会計基準が異なると、違う値になることもあるからです。経済環境が変わることで、後から大きな減損が発生することが続くと、会計上の損益に対する信頼は低下します。「会計不信」がしばしば取り沙汰されるのは、非常時に多いと言えます。
金融機関や機関投資家のアナリストは、キャッシュフローを重視
企業にお金を貸す金融機関(銀行など)は、会計上の利益よりも、キャッシュフローを重視するのが普通です。機関投資家のアナリストは、会計上の利益も見ますが、同時にキャッシュフローも見ます。
M&A(合併と買収)の現場では、キャッシュフローの方が重要視されます。未上場企業の買収価格をいくらにするか決めるのに重要なのは、会計上の利益ではなく、キャッシュフローを稼ぐ力です。
キャッシュフロー表は営業CF・投資CF・財務CFから構成される
上場企業が決算の時に公表するキャッシュフロー表では、キャッシュフローが、【1】営業キャッシュフロー(営業CF)、【2】投資キャッシュフロー(投資CF)、【3】財務キャッシュフロー(財務CF)の三つに分けて示されます。
詳しい説明は割愛します。ざっくり、おおざっぱに解説すると、
【1】営業CF:主に「本業」で現金をいくら稼いだか(減らしたか)示す
【2】投資CF:主に設備投資などでどれだけ現金を減らしたか示す。設備の売却などで現金を増やしたことが示されることもある。
【3】財務CF:主に借金などによっていくら現金を増やしたか、あるいは、借金返済によっていくら現金を減らしたかを示す。
上記は、極めておおざっぱな概要説明で、細かい説明は省略しています。もっと詳しい説明は、別の機会にします。
キャッシュフロー表に企業の経営姿勢が表れる
キャッシュフロー表をみると、企業の経営姿勢がわかります。営業CFよりも投資CFの方が小さい状態を、「経営の安全運転」と言います。本業で稼いだキャッシュの範囲内で、投資をするから、借金が増えることは無く、財務は安定します。
一方、営業CFのプラスよりも、投資CFのマイナスの方が大きいと、足りない分を、借金を増やすなどして対応する必要が出ます。成長のチャンスとみて、積極的に投資する「攻めの経営」をしていることがわかります。
詳しく読み込めば、キャッシュフロー表には、さまざまな経営の意思が表れていて興味は尽きません。
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