キャッシュフロー表に表れる構造改革

 武田薬品のキャッシュフロー表を見ると、同社の構造改革が成功しつつあることがよくわかります。つまり、キャッシュを稼げない古いビジネスを売却し、これからの成長をけん引するビジネスを取得する、事業ポートフォリオを入れ替えていることがわかります。

 以下、2019年3月期以降のキャッッシュフロー表をご覧ください。

 なお、キャッシュフロー表の見方がわからない読者のために、このレポートの末尾に、キャッシュフロー表の見方の解説を載せています。ご参照ください。

武田薬品工業の連結CF(キャッシュフロー)表:2019年3月期~2022年3月期

出所:同社有価証券報告書、億円未満四捨五入。CFは「キャッシュフロー」の略

 上記キャッシュフロー表から、同社の有利子負債を削減する構造改革が順調に推移していることがわかります。

 武田薬品は、将来の成長のために、海外で巨額買収を繰り返してきました。特に、2019年1月に約6兆2,100億円で買収【注】したアイルランドのシャイアー社は、同社に大きな変革をもたらしました。

【注】シャイアー社買収
 約6兆2,100億円で買収。うち3兆294億円を現金で支払い。残額を同社普通株式で支払い

 この買収で、武田薬品は希少疾患、血漿分画製剤で世界のメジャーになったことに加え、他の領域でも幅広く創薬エンジンとパイプラインを獲得しました。将来に向けて重要な買収だったと評価できます。

 ただし、この買収に、当時否定的な意見を述べたアナリストが多数いました。この買収で、武田薬品の有利子負債が膨れ上がり、財務を圧迫したからです。2019年3月期のキャッシュフロー表を見ていただくと、財務CFが2兆9,462億円のプラスと巨額です。有利子負債を増やすことなどで、約3兆円の買収資金(現金払い分)を調達したことがわかります。

 ただし、その後のキャッシュフローをご覧いただくと、この時、膨らんだ有利子負債の返済に成功しつつあることがあります。2020年3月期~2022年3月期までの3期で、財務キャッシュフローはマイナス3兆円を超えています。主に営業キャッシュフローによって稼いだ現金で、有利子負債の返済を順調に進めてきたことがわかります。

 本業で稼いだキャッシュに加え、非中核事業の売却で得たキャッシュによって、シャイアー社買収に使った現金3兆円分はほぼ稼いだことになります。これで、買収に伴って増加した有利子負債はほぼ返済し終わったと言えます(買収時のシャイアー社有利子負債1兆6,032億円を引き受けた分は除く)。