日米中は「三角関係」を安定的に管理できるか?

 まず日米関係ですが、安倍元首相の死去、自民党大勝を受けて、民主主義、安全保障、インド太平洋戦略といった点で、同盟の軸と絆は一層強固になったと言えるでしょう。米国としては、参院選に大勝した岸田政権が、今後3年間政権運営や政策実行に集中できる基盤を整えたこと、その上で、憲法改正、防衛力拡大などが議題に上がっている現状は当然歓迎すべきことであり、岸田政権を引き続き側面的に支援していくでしょう。

 次に日中関係ですが、安倍元首相という日中関係の功労者の存在感は大きいと思います。先週のレポートでも触れましたが、中国はこれまでも日本の憲法改正を巡る動きに対しては一定程度の警戒を示してきました。参院選の結果を受けて、7月11日、中国外交部の汪文斌(ワン・ウェンビン)報道官は、今後政治の主要アジェンダになる可能性が高い憲法改正について、次のようにコメントしています。

「歴史的な原因によって、日本の憲法改正問題は国際社会とアジア隣国から高い関心を集めてきた。我々は、日本が歴史の教訓を真剣にくみ取り、平和的発展の道を堅持し、実際の行動でアジアの隣国と国際社会からの信認を得ることを望んでいる」

 従来の枠組みや文言を完全に踏襲するものであり、参院選の結果、および憲法改正アジェンダの本格化を受けて、中国側としての立場や見方が変わったという根拠は全く見いだせません。中国としては、引き続き日本の憲法改正問題を注視していくでしょうが、改憲勢力である4党で合意し、国民が納得できる内容、文言でなければ発議する意義に欠ける点を考慮すれば、一筋縄にはいかないと思っているでしょうし、表面的には懸念や警戒を示していくでしょうが、憲法改正=平和憲法、平和国家としての歩みの放棄とは捉えないでしょう。

 中国がより警戒するのは防衛費の拡大、およびその背景としてあるウクライナ危機や中国の台頭を契機に、日本が防衛力をどう強化し、その過程で同盟国である米国と、インド太平洋戦略という枠組みでどう連携していくかに他なりません。

 そう考えると、鍵を握るのはやはり米中関係ということになります。

 端的に言えば、米中関係がギクシャクすればするほど、米国との同盟関係を強化しつつ、隣国であり、最大の貿易相手国である中国とも経済関係を中心に発展させていかなければならない日本としては、立ち振る舞いが厳しくなります。米国か中国、どちらかを取り、どちらかを捨てるという究極のジレンマに陥ってしまえば、日本の生存と成長が危うくなるからです。

 その意味で、インドネシアで開かれたG20外相会合に際し、ロシアがウクライナに侵略を開始して以降、初めての米中外相会談が実現した経緯は朗報と言えます。会談は5時間続きました。多国間外交の合間に行われる二カ国間会談としては異例の長さです。ブリンケン国務長官が記者の前で語ったように、「米中のような複雑な国家間の関係では、話すことがたくさんある」ということなのでしょう。

 王毅(ワン・イー)外相兼国務委員は、従来のごとく、米中関係があらゆる課題に直面しているのは、米国側の対中認識に問題が生じているからだと強調し、中国の政治体制や発展の進路を重んじること、ゼロサム思考を捨て、小サークルをつくらないこと、台湾問題で自制すること、中国の主権や領土の一体性を重んじること、中国の内政への干渉を止め、人権や民主を掲げて中国の正当な利益に損害を与えないこと、などを米国側に要求しました。ウクライナや朝鮮半島問題を巡っても意見交換しましたが、議論は平行線が続き、歩み寄りや具体的進展は見られませんでした。

 一方、王氏が「中米はアジア太平洋地域で良循環すべき」と提起すると、ブリンケン氏はそれについては納得していたようで、会談に精通する中国政府関係者によれば、「会談の雰囲気や両外相の対話の口調は穏やかで、笑顔も見られた」と言います。米中両国政府は、習・バイデン首脳会談のセッティングに向けても話し合いを進めている最中と理解していますが、米中間でハイレベル対話が継続、機能することは、両国がこのアジア太平洋地域に「良循環」をもたらす上で必要不可欠と言えるでしょう。

 米国、中国、日本は世界第一、第二、第三の経済大国です。新型コロナウイルス禍前、2019年の統計によれば、この3カ国の名目GDP(国内総生産)は世界全体の46.5%を占めます(米国24.4%、中国16.3%、日本5.8%)。「三角関係」をどう安定的に管理するかは、地域の平和と繁栄そのものに影響するのが必至です。一人の日本国民として、3カ国の指導者が、故安倍晋三氏の遺志を受け継ぎ、平和のために共働していくことを願うばかりです。

マーケットのヒント

  1. 参院選を経て本格化が予想される憲法改正問題を中国は警戒するが、過剰反応は見られないし、それをもって日中関係を悪化させるつもりもない。
  2. 日米中関係の安定的管理は世界の平和と繁栄そのものに影響する。
  3. 安倍晋三元首相の遺志を受け継ぎ、真の平和実現に向けた共働が日米中の指導者には期待される。