米国と中国はどう反応したか

 米国と中国は今回の参院選を巡る一連の過程と結果に対してどう反応したのかを見ていきましょう。

 まず米国ですが、アントニー・ブリンケン国務長官はG20外相会合に出席するためにインドネシアを訪問していたところ、訃報を受けて急きょ予定を変更し、安倍元首相を追悼するために日本を訪問しました。同長官は岸田首相と行った会談の中で、「安倍元首相は揺るぎない日米同盟の擁護者であり、『自由で開かれたインド太平洋』という先見性ある理念を掲げ、米国をはじめ同志国との連携強化に多大な功績を残された」と述べています。

 また、ジャネット・イエレン財務長官はインドネシアで開かれるG20財務相・中央銀行総裁会議に出席するために就任後初のアジア訪問を予定していましたが、日本訪問の予定を1日早め、11日に行われた安倍元首相の通夜に参列しています。ジョー・バイデン大統領やドナルド・トランプ前大統領からも安倍元首相を惜しみ、功績をたたえる言葉が発せられました。

 次に中国ですが、安倍元首相が銃撃され、死亡するという事態を、中国の官製メディアはリアルタイムで報じ、世論もこの件一色という様相を呈していました。中国外交部報道官はもちろん、習近平(シー・ジンピン)国家主席本人が岸田首相に弔電を送り、「中国政府と人民を代表し、また私個人の名義をもって、安倍元首相が突然の不幸に遭い、逝去されたことに深く哀悼の意を表し、ご遺族にお悔やみを申し上げる」と表明しました。

 弔電の中では、安倍元首相の功績についても触れられています。

「安倍元首相は在任中、中日関係の改善に努め有益な貢献をされた。私は安倍元首相と、新時代にふさわしい両国関係の構築について重要な共通認識に達した。突然、亡くなったことに痛惜の念に堪えない」とし、習夫妻連名で、安倍昭恵夫人にも弔電を送りました。

 その政治信条や国家観から、安倍元首相の戦略や政策は、中国のそれとは相いれない局面も多々ありましたが、それでも、この弔電からは、中国の国家指導者として、習氏が安倍元首相のことを、同じ為政者として高く評価していた、尊重していた心境を垣間見ることができます。

 また、安倍元首相の死去を受けて、7月11、12日、北京にある日本大使館では弔問のための記帳の受付が行われました。中国外交部の馬朝旭(マー・ジャオシュー)副部長が11日、同館を弔問に訪れて記帳し、「安倍元首相は在任中に両国関係の改善と発展に多大な貢献をされた」と述べ、哀悼の意を示しました。

 私から見て、馬氏は将来の外交部長(日本の外務大臣に相当)候補として、今後中国外交を引っ張っていくキーマンの一人です。そんな馬氏が中国外交部を代表して弔問に訪れた事実には意味があると思っています。