米雇用統計と参院選与党圧勝を受け、年初来高値を更新

 先週8日(金)に発表された米国雇用統計は非農業者部門雇用者数が前月比+37.2万人、失業率が3.6%と予想よりよい結果となりました。この予想よりよかった米雇用統計と参議院議員通常選挙の与党圧勝を受けて、週明けドル/円は再び1ドル=137円台に上昇し、年初来高値を更新しました。

 11日(月)の日本銀行支店長会議で黒田東彦総裁が、粘り強く金融緩和を続けると発言したことも円安容認と捉えられ、円安を後押しました。

 先週金曜日の安倍晋三元首相狙撃というショッキングなニュースがマーケットに伝わると、クロス円も含めて円高に動きましたが、円売りポジションの調整の域を出ない動きでした。135円台前半まで売られたドル/円は、米雇用統計前に136円台を狙う水準に戻っていました。安倍元首相狙撃事件は驚愕(きょうがく)のニュースでしたが、直後のマーケットの反応は比較的冷静な動きでした。

 それよりも、戦前の総理大臣・総理経験者への襲撃事件が1909年の伊藤博文暗殺事件から1936年の二・二六事件までの27年間で5件発生し、日本が右傾化していった歴史的事件が今回の事件に重なってくるように思います。

 参院選で与党圧勝となれば、海外投資家は日本の政治安定を好材料として捉え、金融緩和継続、低物価の日本市場は「買い」との見方が浮上するのではないかとみていましたが(円高材料)、狙撃事件によって、日本は元首相が狙撃されるような不安定な社会に変じたのではないかと海外投資家が懸念し、また、自民党の重鎮であった安倍氏がいなくなることで政局が混乱するとの見方も浮上し、「日本買い」はしばらく様子見になるかもしれません。

ドル/円よりもユーロ、ポンドに注目

 ドル/円は、12日も137円台半ばまで上昇し、年初来高値を更新しましたが、米10年債利回りが直近高値だった3.4%近辺に上昇しているわけでもないため、どんどん円安に動くということもなさそうです。

 6月後半から134~137円で動いていたレンジを上方に大きくブレイクしたとはまだいえず、数日、動きをみる必要がありそうです。

 それよりもユーロがパリティ(1ユーロ=1.0ドル)を割れてさらにユーロ安が進むのか、あるいは政局混乱が続きそうなポンドの方が、ドル/円よりも注目度が高まりそうです。

 もし、ユーロやポンドの売りが続いた場合、ユーロ安・ドル高の影響でドル/円は堅調な動きになるかもしれませんが、同時にユーロ/円やポンド/円が売られることからドル/円の円安は抑制される可能性があります。

マーケットの焦点は物価から景気に

 今週は、13日発表の米国6月CPI(消費者物価指数)に注目です。米雇用統計は予想よりよかったのですが、平均賃金の前年比伸び率は鈍化しています。

 また、ここ数週間で資源価格全般が低下基調にあるため、物価はピークアウトしたのではないかとの見方もありますが、米国CPIの多くのウエートを占める家賃が高止まりしているため、CPIはまだ夏場は高く、下落するにしても秋口以降との見方が大勢のようです。

 もし、前月(8.6%)や予想(8.8%)を上回るCPIが発表された場合、急浮上している1%利上げ観測が強まることも予想されるため注意が必要です。

 もし、1%の利上げとなれば、さすがにドル/円をもう一段円安に押し上げることになりそうですが、FOMC(米連邦公開市場委員会)開催前に期待先行によって相場が動くことに十分留意する必要があります。

 一方で、利上げの加速によって景気後退懸念が強まることも避けられそうにありません。15日(金)に中国の4-6月期GDP(国内総生産)が発表されます。前期比でマイナス成長が予想されていますが、どの程度マイナスになるのか注目です(1-3月期前期比+1.3%、前年比+4.8%)。

 さらに、欧州の景気が気になります。11日、ロシアとドイツをつなぐ天然ガスの主要パイプライン「ノルドストリーム」の供給が止まりました。

 ロシアは毎年恒例の定期検査のためと説明していますが、ドイツ政府は「検査終了後もノルドストリームの完全封鎖が続く恐れがあり、その可能性に向き合う必要がある」と、ロシアの報復措置への警戒を強めています。

 供給が止まれば、夏場は乗り越えられても需要が拡大する冬場に対応できなくなる恐れがあり、ドイツ経済や社会生活に大きな打撃を与える可能性があります。

 定期検査は21日ごろまで続くとのことですが、果たして供給が再開されるのかどうか注目です。

 21日にはECB(欧州中央銀行)理事会があります。ECBはこのような環境の中で予定通り利上げに踏み切るのかどうか、その先の利上げについて慎重になるのかどうか注目です。

 12日に発表されたドイツの7月ZEW(欧州経済研究センター)景気期待指数は大幅に悪化しました。天然ガスの供給停止や景況感悪化のニュースからユーロはパリティ(1.0)近辺まで下落しましたが、供給停止の影響はこれから起こるかもしれない話です。

 また、やっかいなのはECBが利上げをしても景気悪化懸念からユーロ売り、利上げを見送ってもユーロ売りになる可能性があるということです。

 FRB(米連邦準備制度理事会)の大幅利上げによる景気後退、中国経済の減速、欧州の景気減速と利上げ。今後の景気の減速度合いによっては、マーケットの焦点は物価から景気に移っていくかもしれません。