QT(量的引き締め)環境で日本人に米国債や米国株を買ってもらわないと困る米国

 日本銀行の黒田東彦総裁は「金融引き締めを行う状況には全くない」と、円安をあおるようなことを世界に対してアピールしている。

 また、岸田文雄政権の「新資本主義」は、当初の財政再建に向けたトーンを弱め、成長重視のアベノミクス路線に転向してきている。「骨太の方針」で、財政健全化目標の達成期限を削除してしまった。

 運用者の間では、こうした日本の動きは「米国大使館からの要請だろう」との見方が多く、この世界的なインフレ下で、日本は巨額債務を無視して周回遅れのMMT(現代貨幣理論)政策をやらされているとうわさされている。

 あのクリスティーヌ・ラガルドのECB(欧州中央銀行)も利上げに向けて動いている中、日本にMMTや資産運用奨励政策をやらせて、日本人に米国債や米国株を買ってもらわないと、米国がファイナンスに困るからである。

 米国の傀儡(かいらい)である日本は、弱者の宿命とはいえ、MMTの狂気の最たるものである0.25%の指値オペという無制限緩和をおこなっているのである。

 いずれにせよ、相場の自己強化プロセスにより、新しい円キャリートレードが始まっている。円はこれからさらに下落するだろう。

 通常、円キャリートレードで調達された資金は利回りの高い米国債などの類似商品に投資されるが、リスク志向が高まると、その時々の勢いのある取引に投資されるようになる。それはコモディティかもしれないし、株式かもしれない。

 もちろん、こうしたキャリートレードは株が暴落すれば最終的には涙をのむことになるが(2008年のリーマンショックで巻き戻されたように)、日銀の金融政策の弱点を突いた円キャリートレードが再び現れてしまったので、円はこれからさらに下落する可能性があるということである。

ドル/円(日足)

(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 円安や物価上昇で最も苦しむのは誰か? 答えは、低所得者、年金受給者、そして資産の比較的高い割合を預金や国債で保有し続けている慎重かつ保守的な投資家である。われわれは今、「給料は上がらないが物価は上がる」という典型的なスタグフレーションのさなかにいるのである。この傾向は、これからもっとひどくなるだろう。

「カネ持ち・政府・メディアのおぞましき三連星がもたらす不正と腐敗」(マーク・ファーバー)の時代が到来し、インフレ(コストプッシュインフレあるいはスタグフレーション)が世界経済を脅かしている。