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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
【日本株】日経平均堅調 日中リオープン期待 米引き締めの懸念は続く​」 

米国株が反落する中、日中株価指数が上昇

 先週(5月31日~6月3日)の日経平均株価は、1週間で979円(3.7%)上昇し、2万7,761円となりました。先週は日本・中国の株価指数が上昇する中、米国・ドイツの株価指数が小反落しました。日本株が米国株よりもパフォーマンスの良い状況が続いています。

先週(5月30日~6月3日)の世界の主要株価指数の騰落率

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 中国が6月1日、上海のロックダウン(都市封鎖)を解除しました。2カ月にわたるロックダウンで中国景気だけでなく、日本や世界の景気にも悪影響が及ぶことが懸念されていましたが、解除を受けて安堵が広がりました。中国政府は、4-6月の中国GDP(国内総生産)が落ち込むことを防ぐために巨額の経済対策で景気を押し上げる構えです。

 日本でも、リオープン(経済再開)による消費回復が見込まれています。先週はリオープン期待で日経平均・上海総合指数が上昇しました。

 一方、先週、米国株の主要指数はそろって反落しました。6月3日に発表された5月の雇用統計が強く、FRB(米連邦準備制度理事会)が引き締めを急ぐ姿勢は変わらないと見られたことが反落の要因となりました。以下の通り、今年に入ってから、米国株が下落する中で日経平均が堅調な展開の流れが続いています。

ナスダック・日経平均比較:2019年末~2022年6月3日

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成。2019年末を100として指数化

 ナスダックを急落させてきた、米インフレ・引き締めショックが緩和する兆(きざ)しはありません。米インフレ(米CPI総合指数前年比上昇率)は4月時点で8.3%と高止まりしたままで、FRBが急激な引き締めを急ぐ環境に変化はありません。3日に発表された5月の雇用統計がその見方をさらに裏付けた形です。

5月も米雇用は強い

 3日に発表された、5月の米雇用統計は、強い内容でした。完全失業率は3.6%と、4月と同水準でした。コロナ前(2020年2月)の水準(3.5%)とほぼ同水準で、実質完全雇用にあります。

完全失業率:2014年1月~2022年5月

出所:米労働省

 非農業部門の雇用者数は、前月比で39万人増加しました。

非農業部門の雇用者増加数(前月比):2019年1月~2022年5月)

出所:米労働省

 前月比の雇用増加数が、2022年2月71.4万人→3月39.8万人→4月43.6万人→5月39.0万人と減少していますが、労働市場が逼迫(ひっぱく)しているために求人を出しても採用できない影響が出ています。米雇用が強い状況に変化はありません。それが平均時給の変化に表れています。

平均時給の上昇率(前年同月比)

出所:米労働省

 5月の平均時給は、前年同月比で5.2%の上昇で、インフレ圧力を高める要因となっています。

 上のグラフの見方で、少し説明が必要です。コロナ禍に見舞われた直後、2000年4月に平均時給が8.0%の上昇となったのは、低賃金の労働者が大量に解雇されたためです。その後、米景気回復にともなって2021年4月に0.6%まで上昇率が低下したのは、低賃金労働者が労働市場に戻ってきたからです。今、ほぼコロナ前の雇用に戻ったところで、平均賃金が5.2%上昇していますが、これが特殊要因のない米賃金の状況と考えられます。労働需給が逼迫hし、賃金上昇圧力が高いことが分かります。

日本株が堅調な4つの理由

 3月以降、米国株が弱い中で日本株の堅調ぶりが目立っています。日本株が堅調な理由は毎週のレポートで書いている通り、以下4つです。これに、中国リオープンで中国景気が持ち直す期待も加わり、5つの理由が、日本株堅調の背景にあります。

【1】円安

 円安は日本の企業業績には大きなプラス要因です。円安による輸入物価の上昇が国民生活にマイナスなので「悪い円安」とメディアで盛んに言いたてていますが、企業業績にはプラス効果が大きいです。

【2】リオープン(経済再開)への期待

 日本は、ウィズコロナでリオープン(経済再開)への期待が高まっています。コロナで抑え込まれていた消費が一時的に大きく伸びる可能性があります。中国上海のロックダウン解除も日本株に追い風です。日本経済は、中国経済の影響を大きく受けると考えられているからです。

【3】日本の企業業績が良好

 3月期決算の発表がほぼ終了しました。終わったばかりの2022年3月期が好調であったことに加え、新年度(2023年3月期)も小幅ながら増益が見込める可能性があります。以下が、東証上場主要841社の業績推移です。今期、楽天証券では、連結純利益が5.8%の増益になると予想しています。

東京証券取引所上場、3月期決算主要841社の連結純利益(前期比)

出所:楽天証券経済研究所が作成 注:2017年3月期より2021年3月期までは東証一部上場の主要841社から計算、2022年3月期・2023年3月期は東証プライム上場の主要841社から計算。東証一部主要841社のうち、東証再編でプライム市場に入らなかった54社は除外し、プライムに入った銘柄と入れ替え

【4】「インベスト・イン・キシダ」、資産倍増策への期待

 岸田首相が提唱している「新しい資本主義」では、株式投資にネガティブな提言が多く警戒を生じていました。ところが、先般、岸田首相がロンドンで行った講演では、「インベスト・イン・キシダ」と述べ、株式投資にフレンドリーな発言が出たことが注目されました。岸田政権の政策スタンスに変化が生じる兆しかと、期待が生じています。

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