いったん復調後に暴落ケース

 こういう解説をすると、今すぐにも時間分散買いを始めたいという衝動に駆られるかもしれません。しかし、相場展開は図1ほどシンプルな軌道にならない可能性を見ています。当面は6、7月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で織り込み通り0.5%ずつ利上げ、インフレの前年同月比鈍化などを背景に、相場のアヤ戻しがあるかもしれないと見ています。しかしその場合も、正念場は秋以降でしょう。

 利上げ観測が後退すれば、株式相場は当初楽観視して上がる目がありますが、その背後に景気悪化への懸念がある場合は、早晩反落するでしょう。あるいは、インフレ高止まりからさらに高い利上げも辞さずという状況になれば、金利上昇後の景気悪化懸念が強まり、株式相場はやはり一段安になると見ます。

 図3は、こうした条件を勘案し、向こう3カ月に相場はいったん持ち直すものの、秋以降に反落し、2023年半ばに底入れする展開を青点線で描いています。今すぐに時間分散買いを開始した場合のポジション・コストが赤線、再反落で底割れ確認後に参入するケースのコストが紫線です。損益分岐点の高さと時期にこれだけの差が出るのです。

 当面の相場のアヤ戻しを探索する意味はここにあります。相場暴落の経路と、その回復軌道にある程度めどが立ったら、時間分散投資の効果をより高めることができるでしょう。したがって、現在の相場条件を見れば、今すぐ買い急ぐ必要はないと判断します。

 また、米株式を円ベースで考えている投資家は、最近の円安地合いが来る米金利ピークアウト局面には円高に転じていることも踏まえた対応が必要になります。為替相場も含めて、時間分散しているから構わないという考え方と、筆者が好むように、株安と円高をある程度見極めてから厚めにポジション構築を進める考え方と、こういう切実に感じられる場面にぜひ比較考量してみてください。

 なお、暴落を逆手に取る投資は、投資余力としてのキャッシュを備えていればこその方法です。今回のような典型的な中間反落には、利上げ見通しの強化という明快なきっかけがありました。

 サイクル投資を首尾良く遂行するためには、相場格言「強気相場は、悲観の中で生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」という心理的な壁を越え、淡々と行動を起こす構えが必須です。

図3:ここからの時間分散投資の妙味 ケース2

出所:Bloomberg、田中泰輔リサーチ

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