資本主義を破壊させる最善の方法は、通貨を堕落させること

 制裁を受けて急落していたロシアルーブルが急速に戻し、対ドル、対ユーロでいずれも約2年ぶりの高値をつける動きとなっている。ロシアの主要な銀行がSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除されたことや、海外に持つロシア中銀の外貨準備を凍結されるなど、異例とも言える経済制裁を受け、ルーブルは一時対ドルで価値が半分程度にまで下落していた。

ドル/ロシアルーブル

出所:Stooq

ユーロ/ロシアルーブル

出所:Stooq

 ルーブルの急落を受けて、ロシア政府は相次ぎ通貨防衛策を打ち出した。まず、政策金利を一気に20%にまで引き上げた他、ロシアの輸出企業に対し外貨売却を義務付けるなどの対応を行なった。さらに、外貨購入制限を実施、預金者は外貨建て預金からの引き出しやルーブルを外貨に両替することなどを制限されるに至った。

 これらの措置に加え、ルーブル回復の背景には貿易収支の改善も大きく寄与したと考えられる。ニューズウィークの記事「いまだ石油で1日10億ドルの戦費を稼ぐロシア-それでも「経済制裁は効かない」は間違いだ」によると、ロシアには天然ガスや石油からの収入が1日10億ドルあるという。

 国際的な制裁によって欧米企業を中心にロシアでの販売を取りやめる動きが広がっており、ロシアの輸入は減少している。一方、エネルギーをロシアに依存している欧州各国は、すぐに購入を減らすことができないため、ロシアからの石油や天然ガスなどエネルギーの輸出は継続している。

 つまり、ロシアにおいて輸出はそれほど減少していないのに対し輸入が減っており、経常収支の黒字がより大きくなることが想定される。これも一時的なルーブル高要因として効いている。

 ロシアは3月、欧米や日本など非友好国に対しては天然ガスの代金をルーブルで支払うよう要求した。これに各国は反発し、妥協案として示されたのが、SWIFTの規制対象外となっているガスプロムバンクでの決済だ。

 欧州各国がエネルギーの輸入代金をガスプロムバンクに外貨で振り込めば、ルーブルに両替して口座に入れる形をとるという奇策に打って出た。欧州各国にとってみれば、従来同様、ユーロやドルで代金を支払うことができる。これによってルーブル買いが発生し、ルーブルを買い支える結果になっているという。

 日経新聞の記事「レーニンの予言 インフレが敗者を決める」にあるように、約100年前にロシア革命を指導したレーニンは「資本主義を破壊する最善の方法は、通貨を堕落させることだ」と語ったとされている。

 この言葉はレーニンが発言し、ケインズがはやらせた言葉だ。「社会の存続基盤を転覆する上で、通貨を堕落させること以上に巧妙で確実な方向はない」と、ケインズは書いている。

 今回の制裁強化が既に水面化で進んでいたドル離れを加速させる可能性もある。欧米による経済制裁はロシアだけではなく、制裁を課した側、つまり欧米や日本にブーメランのように跳ね返ってくることもあるのかもしれない。

 ロシア大統領府は29日、通貨ルーブルとゴールドやその他商品の交換比率を固定することを検討していると明らかにした。ペスコフ大統領報道官が記者団との電話会見で「この問題をプーチン大統領と話し合っている」とロイター通信が報じた。ルーブルと、金地金や資源類の価格を固定(ペッグ)する金資源本位制の導入に向けて動いていることを明らかにしたという。

 クレディ・スイスのゾルタン・ポズサーは、G7がロシアのウクライナ侵攻を受けて、ロシアの外貨準備を凍結した日に、現在の通貨体制は終焉を迎えたと述べている。「リスクフリーと考えられていたものがそうではなくなり、存在しなかった信用リスクがきわめて現実的な没収リスクに一瞬で置き換わった」のだ。

 ポズサーが「ブレトンウッズIII」と呼ぶ新しい国際金融秩序は、ペーパーマネーから実物資産への投資を加速させていくのであろうか? いずれにせよ、現在のドルを基軸通貨とする金融システムが弱体化していくなかで、インフレ率は上昇していくだろう。

米国の公式CPI(赤)と1980年ベースのもう一つのCPI(青)の推移

出所:ShadowStats