市場のレバレッジのほとんどは破裂してからその深刻さが明らかになる
「市場の最も慎重な友人でさえ、証拠金で購入された証券によって担保されたローンのブローカーのローンの量は、投機の量の良い指標であると認めるでしょう」
ジョン・ケネス・ガルブレイスは『大暴落1929』で、そう述べている。
マージンデット(証拠金債務)は「投機量指数」と言われ、現在、過去最高水準にある。ガルブレイスが『大暴落1929』で証拠金債務に言及して以来、何よりも優れた投機的活動の指数となっている。レバレッジはセルオフを加速させる。それが特徴だ。
マージンデットの推移
「投機量指数」(GDPに対する証拠金債務)
レイ・ダリオは5月4日にリンクトインに投稿した『The Popping of the Bubble Stocks: An Update』で、彼が使っている「バブル指標」を更新し、「バブル指標はバブルの終焉(しゅうえん)を示唆している」と述べた。
それによると、2022年1月以降に割高なバブル株の株価が三分の一程度下げたため、現在はバブルではなくなったという。しかし、これはバブルが崩壊方向に向かっている途上であり、「今が買い場とは限らない」と述べている。バブルが崩壊すると、株価は半値や八掛けになってしまうことが多いからだ。
レイ・ダリオはマージンデットの崩壊がバブルの崩壊に発展することを以下の図で示した。
マージンデットがどのようにバブルの崩壊につながるのか(1920年代のバブル・1990年代のバブル・現在)
購入資金を高レバレッジで調達していないか?
「バブルの崩壊には長い時間がかかり(1929年バブルの場合は2年、90年代後半のハイテクバブルの場合は1年)、通常、逆の極みに向かうので、バブルの極みでないからといって安全だとかロング(買い持ち)するのにいい時期だとかいうことにはならないのである。実際、米国株全体は我々の尺度ではまだ割高に見える。歴史的に見ると、バブルはいったんはじけると、より「正常な」価格に落ち着くよりも、下降に転じることが多い」
(レイ・ダリオ)
歴史が教えてくれることは、バブルが弾け始めると、理論的に正常な価格に落ち着かず、より下方向に過剰反応することが多いということである。
マージンデットは、資産担保ローン、 コールオプション、先物、レバレッジETF、 トータルリターンスワップなどのレバレッジを計測しているにすぎない。金融市場が崩壊すると、リスク資産の市場で採用されているレバレッジは、さらに大きくなるのである。
マージンデットだけではない。今や世界は債務でまみれている。ゼロヘッジの記事「The $2.3 Quadrillion Global Timebomb(2,300兆ドルのグローバル時限爆弾)」は、世界の債務、デリバティブ、未積立債務の合計が2,300兆ドルと見積もっている。
2,300兆ドルの時限爆弾を抱える世界経済
これは中央銀行が現金は輪転機をまわせばタダだということで、MMT(Modern Monetary Theory)政策をおこなってきた結果の数字である。人々はやがて、中央銀行によって印刷されたお金の価値が無価値であることに気付くだろう。
*MMT(現代貨幣理論)
ある条件下(低インフレ下)で政府は国債をいくらでも発行して良いという考え方を指す。これは政府債務の拡大(借金を増やすこと)を歓迎する新しい経済理論であり、昨今では経済学者の間で議論や批判の対象になっている。
マーク・ファーバーは、「普通、サンタクロースは思春期にいなくなる。正直なところ、MMTは現代でも理論でもない。通貨インフレによる詐欺的課税で資本主義と中産階級の両方に忍び寄る実績ある殺し屋だ」と述べた。
「MMTは資本主義と中産階級の両方に忍び寄る実績のある殺し屋」とはどういうことか?
MMTは、過去一度も機能しなかった。18世紀初頭のフランス、西暦180〜280年のローマ帝国、または19世紀と20世紀のワイマール共和国、ジンバブエ、アルゼンチン、ベネズエラを確認すればわかるだろう。
シンプルに資産を保全することが自分たちのできる最も重要なことだ
FOMC(米連邦公開市場委員会)通過後の米国株式市場が波乱相場の様相を呈している。CNNビジネスの「Fear & Greed(恐怖と欲望)指数」は19と「EXTREME FEAR(極端な恐怖)」を示している。とりわけハイテク株の下落が著しい。ナスダック100は年初から25%程度下落している。
恐怖と欲望指数(2022年5月11日時点)
ナスダック100CFD(日足)
「明らかに、債券と株式を保有したくない」、これはCNBCの番組に出演したヘッジファンドマネジャー、ポール・チューダー・ジョーンズの発言だ。
チューダーは、このような厳しい環境下では、事実上何でもいいから資本の保全を優先するよう投資家に警告した。「シンプルに資産を保全することが自分たちのできる最も重要なことだと思う。今は非常に困難な時代になった。実際にお金を稼ごうと努力する時期とは思えない」と述べた。
彼はFRB(米連邦準備制度理事会)の行動が米国経済を不況に陥れることを懸念している。FRBが金融引き締めを行い、通年で10回の利上げを行うと予想されている。「一方ではインフレ、他方では成長鈍化、これらは常に衝突することになる」とチューダーは指摘した。
FRBの金利引き上げのサイクルと過去の金融危機
ポール・チューダー・ジョーンズの運用の特徴は<徹底したリスク管理>にある。彼は、「私は失うことを前提に考える。獲得することに夢中になるのではなく保護することを第一に考える。最も重要なルールは攻撃ではなく防御である。
どのリスクポイントで自分は撤退するのかを把握しておかなければならない。私は1カ月あたりの損失率を絶対2ケタにしない」と、発言している。
「私は失うことを前提に考える。獲得することに夢中になるのではなく保護することを第一に考える。優秀なトレーダーほどリスクコントロールに多くの力を注いでいる。失敗する投資家やトレーダーのほとんどは自分のやっていることのリスクを把握していない。時間を費やし自分が何をやっているかを明確に把握した時、彼らは信じられないほどの成功を手にすることになるだろう」
「自分はうまいなどと思ってはいけない。そう思った瞬間に破滅が待っている」
「ナンピンをしないこと。トレードがうまくいかないときは枚数を減らすこと。うまくいっているときには枚数を増やすこと。コントロールができないような局面では決してトレードしないこと。例えば、私は重要な発表の前には多くの資金をリスクにさらすようなことはしない。それはトレードではなくギャンブルだからだ」
「もし損の出ているポジションを持っていて不快なら、答えは簡単だ。手仕舞うだけだ。いつでも相場に戻ってこられるのだから。新鮮な気持ちでスタートを切るのに勝るものはない」
「史上最高の投資家、ジェシー・リバモアは長期的には相場では決して勝てないと言ったと伝えられている。相場に決して勝てないという考え方は驚くべき見方だ。だからこそ私の哲学は巧みな防御なのだ。自分が超人的な洞察力を持っているなどと思ってはいけない。常に自信を持っていなくてはならないが、注意を怠ってはいけない」
(ポール・チューダー・ジョーンズ)
資本主義を破壊させる最善の方法は、通貨を堕落させること
制裁を受けて急落していたロシアルーブルが急速に戻し、対ドル、対ユーロでいずれも約2年ぶりの高値をつける動きとなっている。ロシアの主要な銀行がSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除されたことや、海外に持つロシア中銀の外貨準備を凍結されるなど、異例とも言える経済制裁を受け、ルーブルは一時対ドルで価値が半分程度にまで下落していた。
ドル/ロシアルーブル
ユーロ/ロシアルーブル
ルーブルの急落を受けて、ロシア政府は相次ぎ通貨防衛策を打ち出した。まず、政策金利を一気に20%にまで引き上げた他、ロシアの輸出企業に対し外貨売却を義務付けるなどの対応を行なった。さらに、外貨購入制限を実施、預金者は外貨建て預金からの引き出しやルーブルを外貨に両替することなどを制限されるに至った。
これらの措置に加え、ルーブル回復の背景には貿易収支の改善も大きく寄与したと考えられる。ニューズウィークの記事「いまだ石油で1日10億ドルの戦費を稼ぐロシア-それでも「経済制裁は効かない」は間違いだ」によると、ロシアには天然ガスや石油からの収入が1日10億ドルあるという。
国際的な制裁によって欧米企業を中心にロシアでの販売を取りやめる動きが広がっており、ロシアの輸入は減少している。一方、エネルギーをロシアに依存している欧州各国は、すぐに購入を減らすことができないため、ロシアからの石油や天然ガスなどエネルギーの輸出は継続している。
つまり、ロシアにおいて輸出はそれほど減少していないのに対し輸入が減っており、経常収支の黒字がより大きくなることが想定される。これも一時的なルーブル高要因として効いている。
ロシアは3月、欧米や日本など非友好国に対しては天然ガスの代金をルーブルで支払うよう要求した。これに各国は反発し、妥協案として示されたのが、SWIFTの規制対象外となっているガスプロムバンクでの決済だ。
欧州各国がエネルギーの輸入代金をガスプロムバンクに外貨で振り込めば、ルーブルに両替して口座に入れる形をとるという奇策に打って出た。欧州各国にとってみれば、従来同様、ユーロやドルで代金を支払うことができる。これによってルーブル買いが発生し、ルーブルを買い支える結果になっているという。
日経新聞の記事「レーニンの予言 インフレが敗者を決める」にあるように、約100年前にロシア革命を指導したレーニンは「資本主義を破壊する最善の方法は、通貨を堕落させることだ」と語ったとされている。
この言葉はレーニンが発言し、ケインズがはやらせた言葉だ。「社会の存続基盤を転覆する上で、通貨を堕落させること以上に巧妙で確実な方向はない」と、ケインズは書いている。
今回の制裁強化が既に水面化で進んでいたドル離れを加速させる可能性もある。欧米による経済制裁はロシアだけではなく、制裁を課した側、つまり欧米や日本にブーメランのように跳ね返ってくることもあるのかもしれない。
ロシア大統領府は29日、通貨ルーブルとゴールドやその他商品の交換比率を固定することを検討していると明らかにした。ペスコフ大統領報道官が記者団との電話会見で「この問題をプーチン大統領と話し合っている」とロイター通信が報じた。ルーブルと、金地金や資源類の価格を固定(ペッグ)する金資源本位制の導入に向けて動いていることを明らかにしたという。
クレディ・スイスのゾルタン・ポズサーは、G7がロシアのウクライナ侵攻を受けて、ロシアの外貨準備を凍結した日に、現在の通貨体制は終焉を迎えたと述べている。「リスクフリーと考えられていたものがそうではなくなり、存在しなかった信用リスクがきわめて現実的な没収リスクに一瞬で置き換わった」のだ。
ポズサーが「ブレトンウッズIII」と呼ぶ新しい国際金融秩序は、ペーパーマネーから実物資産への投資を加速させていくのであろうか? いずれにせよ、現在のドルを基軸通貨とする金融システムが弱体化していくなかで、インフレ率は上昇していくだろう。
米国の公式CPI(赤)と1980年ベースのもう一つのCPI(青)の推移
5月11日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」
5月11日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、紙田智弘さん(楽天証券株式会社 株式・デリバティブ事業部)をゲストにお招きして、「バブルは終焉を迎えた」・「米国株式の信用取引がスタート!売りの効用」・「この夏の食料危機と金融市場」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。
ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。
5月11日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー
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