相場変動の力学をつかむ

 相場変動には波動(波のような上下動)の力学が働いています。そのメカニズムを説明する前に、その波動が短期から長期まで重なる構造をイメージしてください(図1)。数年の時間軸の波動は、景気サイクルに沿った金利の動きに基づくファンダメンタルズで評価されます。

 数カ月から週次、日次と短期になるにつれて、投資ポジションの状況と、そこに絡んでくる相場ニュースで読む行動学アプローチの比重が大きくなります。短期では時間刻み、分刻みまで、長期と同じような波動力学が観察される階層構造です。その中から、自らの投資の時間軸に合った波動を中心に観察するようにします。

 相場波動の背景力学を図2で説明しましょう。

(1)まず市場で相場の上昇トレンドが意識されると、買い優勢になり、相場はトレンドより速く高く上がる傾向があります。

 そこでは、早期購入者の含み益が増え、リスク判断が緩み、自らの予想へ過信が出て、ポジションの積み増し、同調買いによる相場の一層の加速が起こりがちです。

(2)しかし、速すぎる相場上昇を警戒して、新規マネーの買いが細ると相場は鈍化します
 
 過大に積み上がったポジションの保有者には、漠然とした不安と、含み益が大きいのでいつでも売り抜ければいいという慢心が混在します。

 ところが、実際に一部売りが出ると、買い手が少ないために相場下落が大きくなり、追随売りが連鎖して、相場は思わぬ急落になりやすいのです。

(3)その下落が、既存ポジションの平均コスト(移動平均などで評価)や、過去の相場保ち合い水準に絡むと、比較的多くの売り手が含み益無しでも売るのかというちゅうちょが生じ、他方で、新規参入者にトレンドに沿った押し目買いの値頃感が出やすくなります。

 ここで売買が拮抗(きっこう)して、相場が下げ止まると、再びトレンド上での波動へと連なって、より長いトレンドが形成されることも通常のパターンです。

 ところが、(3)で、下落相場の勢い、折り悪く出た不都合なニュースによって、相場が一段安になると、既存の平均的ポジションや、過去の水平支持線付近のコストのポジションが含み損に陥って、地合いをひどく暗転させます。含み損ポジションの戻り売り圧力がかかり、相場が低迷すると、市況解説など情報環境も相場追認のネガティブなものに偏ります。

 こうして、簡単には復調に至らず、トレンドは上という基本観を抱きながら、より長くヤキモキする時間を余儀なくされるでしょう。

図1:相場波動の階層構造

出所:田中泰輔リサーチ

図2:相場変動の基本イメージ

出所:田中泰輔リサーチ