「米国によるロシア弱体化戦略は、中国封じ込め戦略の一環」

 一部関係者から、「中国はウクライナ戦争が長引いてほしいのではないか」という分析が
聞こえてきます。欧州や米国が欧州のウクライナ戦争で疲弊することで、それと距離を置く中国は国力を増強させ、かつ米国が欧州で手をこまねいている間にアジアでの影響力を拡大し、あわよくば台湾統一に向けて行動を取れるから、というのが根拠のようです。

 私はこの分析にはくみしません。ウクライナ戦争が長引くことで、対米戦略という範疇(はんちゅう)で中国に有利に働く要素は無きにしもあらず、でしょう。しかしながら、戦争が長引くことで、中国はロシアとの関係を疑われ続けます。中国が経済的、軍事的にロシアを側面支援しているから、ロシアが戦争を止めないのだという世論が高まるでしょう。

 中国への二次的制裁が発動される可能性も高まります。そして何より、2013年3月、国家主席就任以降、習近平主席はプーチン大統領と計38回の首脳会談を重ねてきた、要するに、「プーチンのロシア」との関係構築に多大な投資をしてきました。

 そんなプーチン氏がウクライナ戦争で泥沼に陥り、失敗したとなれば、今秋行われる第20回党大会で3期目突入をもくろむ習主席にとっては政治リスクとなります。責任問題にも発展しかねないでしょう。

 従って、中国は、できる限り早く停戦にこぎつけることを望んでいると私は分析します。ロシア、ウクライナ、欧州が納得できる形で合意に至ることを望んでいるはずです。そして、そんな停戦合意の邪魔をしているのが米国である。米国が目標とするロシアの弱体化は、米国が最大の脅威と定義づける中国を封じ込めるのにも有利に働く。米国にとって、ロシア弱体化戦略は対中封じ込め戦略の一環である。それならなおさらロシア弱体化は見たくない。というのがプーチン大統領を「盟友」に位置付ける習主席の本音でしょう。
(中国のロシア支援に関しては「中国がロシアを軍事支援」は真実か?中ロ関係を再検証」参照)

 中国は戦争勃発当初から一貫して「一方的な制裁には反対。制裁は問題解決につながらない」という立場を堅持してきています。バイデン政権は習政権に対し、ロシア支援を止めて、対ロシア制裁を支持するように促していますが、中国はこの点もかたくなに拒絶しています。その背景にあるのが、上記の対米認識です。中国の思惑を私なりにまとめると、次のようになります。

 仮に中国が米国など西側の対ロシア制裁を支持したとしても、米国が中国への封じ込め戦略を転換させるわけがない。それどころか、支持の度合いが甘いとか、口先だけで行動していないとか難癖をつけ、それを口実に中国に二次的制裁を科してくる可能性すらある。そうなれば、対米関係だけでなく、対ロ関係も悪化してしまい、八方塞がりになる。そもそも米国の目的はロシア弱体化を通じた中国封じ込めなのだから、米国の誘いに乗るのではなく、ロシアと手を握っておくべきだ、それが対米戦略を長期的に展開するのにも有利に働く。