4月の勝機は?

 この悩ましい相場環境に、どのような勝機があるでしょうか。株式相場にとって中期リスクの不透明さは当面払拭(ふっしょく)できないでしょう。インフレ高止まり、景気後退、利上げの着地水準、ゼロコロナ体制下の中国経済、顕在化しつつある新興国(さらには企業)の債務問題、そしてもちろん地政学リスクと対ロシア制裁など、不確実な事態について、ズバリこうなるという類の予想も折々目にしますが、裏付ける根拠は原則ないものと考えて良いものです。

 個々の経済指標が強くても弱くても、インフレ指標が高まっても低くても、中期的な先行きに確信をもてる段階ではないでしょう。長居する台風の下で、瞬間風速(イベント)ばかり気にするようなもので、一つ観測できてもまた次を気にするばかり。風雨が強まるか弱まるか不透明なまま、次の瞬間風速に身構えることの繰り返しです。

 しかし、先行きについて不透明と悲観は違います。不透明であるがゆえにファンダメンタルズ無視の相場形成を見せたのが3月ラリーです。そして3月ラリーは、相場水準をいったん底値から上方に引き離し、有事ショックなどの相場反落リスクに対するバッファーを形成しました。その心理的安堵(あんど)はもちろん、石油高や金利上昇があっても株価が反発し得たとの記憶は、これら逆風要因に対する過敏症を緩和させる効果もありました。

 つまり、ファンダメンタルズの確証を得られない状況でも、心理的に、テクニカルに、中間反落の下値固めの下地をいったん醸成しつつあるようです。前項の図2で、ショート巻き戻し後の欧州株では、新規の上値追い買いが手控えられ、米国株は上値トライの新規買いがあったと推察されますが、この程度の新規買い持ちであれば、少々のショックで売り逃げ動意が出ても、3月底値に至るほどのインパクトにはならないと見ています(なお、日本株の上値追いは円安のサポートに促されたものの、少々無理ありかと判断しました)。

 3月ラリーは、ファンダメンタルズを無視する慢心があったにせよ、心理とテクニカルの下地改善という功が大きいと評価しています。米株式は、4月の調整で3月の下値を割れなければ、押し目拾いの勝機となり、5月には決算とFOMC(米連邦公開市場委員会)のいったんアク抜きを経て、次のミニ波動があるかとの期待を維持しています。もちろん、中期的なファンダメンタルズの不穏さは変わらず、心理・テクニカルで形成されるのは基本的に短期相場であることを踏まえることが肝要です。それでも、不透明さが悲観に転じる前なら、1カ月波動程度の短期相場を更新チェックしながら臨む構えでいます。

 相場は参加していなければ、チャンスにも巡り会うことはできません。金融相場のような追い風を受けて「ハイパー・グロース株で一獲千金」というような無邪気な投資環境ではないため、時流のテーマにかなう銘柄テーマは元より、下方リスクに強いもの、いざという時に機動的に売り抜けられるものを、リスクに見合う金額に抑えて臨むのが基本です。

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