食料、エネルギー、物流:李首相が懸念を抱く三つの経済要素

 次に4月11日、江西省を訪れた李首相は地方政府の首長数名を招集する形で座談会を開催、経済情勢について審議、指示を出しました。上記専門家や企業家との議論が土台になっているのは言うまでもなく、中国政府の政策決定プロセスの特徴と言えます。

 座談会には地元江西省の省書記(党のトップ)と省長が対面で、遼寧省、浙江省、広東省、四川省といった経済を成長させる上で鍵を握る複数の省の省長がオンラインで参加しました。

 私が注目した李首相の各首長への指示は以下。それぞれ解説していきます。

「国内外の環境におけるいくつかの予想を超えた変化に対して高度に警戒する必要がある。経済の下振れ圧力はさらに高まっている。新たな課題を正視し、断固対応せよ」

 上記の座談会を受けて、中央政府としても予想できなかった不確実性への対応を地方の首長に促しています。景気の先行きを全く楽観視していません。

「春季の農業生産、農業企業による物資の供給や価格の安定、末端の配達にきちんと取り組み、絶対に遅延させてはならない。通年の食料豊作を確保し、物価安定の基礎とせよ」

 食料をめぐる供給や価格の安定が、目下経済政策として最重要視する物価の安定につながるという中央政府の姿勢を正確に表しています。

「電力や石炭などのエネルギーの安定供給を保障し、国内の先進的な石炭生産、供給を加速的に解放すべきだ。昨今における物流の中断が経済循環に与える影響を高度に重視せよ」

 上記とも連動しますが、エネルギーの安定供給と物流の円滑な運行が、景気を支えるために最重要視されている現状が見て取れます。7日の専門家・企業家との座談会、11日の地方首長との座談会を通じて、李首相は、基本的に同じテーマ(食料、エネルギー、物流など)に関して同様の見解、指示を披露した事実から、党・政府指導部の経済情勢を巡る懸念事項が明解に整理できます。

 最後に、李首相は11日の座談会で次のようにも語っています。

「新型コロナの感染拡大、その対策の影響を深刻に受けた分野、企業に対しては、“点対点”のサポートをせよ」

「困難が多ければ多いほど、市場プレーヤーに対して良好な商業環境を与えなければならない…市場の期待値を下げるような政策を打ちだしてはならない。仮にそんな政策があれば是正せよ」

 李首相は、インフレリスクやコロナショックに見舞われている現状だからこそ、経済を市場原理で運営させること、政府が余計な干渉をすべきではないことをうたっています。歓迎すべき言及だと思いますが、問題はどう実践されるかです。

 4月18日(月)には、2022年第1四半期(1-3月)の経済指標(GDP成長率、固定資産投資、社会消費品小売総額など)が発表される予定です。どのような数値が出てくるのか見ものです。またその時に分析を加えるようにします。