米国を突き放し、欧州を引き寄せようとする中国の意図

 中国共産党の宣伝機関、国営新華社通信が、3月31日から「新華国際時評:ロシア・ウクライナ衝突シリーズ評論」を毎日配信しています。論調は一貫して、ウクライナ危機が勃発する過程、背景において、米国がいかに消極的な役割を果たしてきたか、もっと言えば、「黒幕」が米国であることを立証しようとするシリーズです。

 1本目の評論「米国はウクライナ危機につけ込んで危害を加えようとしている」(3月31日、呉黎明記者)で示される次の立場は、習近平(シー・ジンピン)国家主席率いる中国共産党指導部の認識を直接的に体現しています。

「ウクライナにおける今日の戦火であるが、導火線はそもそも米国によって埋められた。長期にわたって、ロシアを包囲するため、米国は2つの手段を取ってきた。1つはNATOの5回にわたる東方拡大、もう1つがロシア周辺で“色の革命”(独裁政権転覆のための民主化運動)を引き起こしてきたこと。ウクライナは米国が重点的に動いてきた前哨である。2004年のオレンジ革命から2014年のウクライナ政治動乱まで、背後には常に米国の影があり、最終的にロシアとウクライナという兄弟間紛争に火をつけたのだ」

 この立場の正否はともかく、プーチンが戦争という手段を使って自国の安全保障を確保しようとした背景に、冷戦初期に結成されたNATOが、冷戦終結後も5回にわたって東方に拡張し、6回目の拡張としてウクライナ加盟が視界に入ったことは疑いありません。その意味で、ウクライナ危機が勃発した根本は、イデオロギー闘争に明け暮れた冷戦期の延長戦としての、米国とロシア間における国力や勢力範囲をめぐる大国間政治にあります。戦場と化しているウクライナ、特に民間人は、その犠牲になっているという悲惨な構造です。

 従って、(1)~(3)の中で、根本的に危機を解消するためには、最後はバイデン大統領とプーチン大統領が話を付けるしかないのです。これまでも、トルコのエルドアン大統領がプーチンと会談する、トルコがウクライナとロシア間の停戦協議の仲介をする、エジプトのシュクリ外相がアラブ連盟として停戦協議を進めるための調停者になるという意思を表明する…というように、第三者によるさまざまな外交調停が試みられていますが、究極的には米ロ間で、ウクライナを取り巻く状況をどう管理するかに関して話を付けるしかない。その過程で、ドイツ、フランス、そして中国の果たす役割は小さくないと私は考えています。米国とロシア双方に話を持っていける立場にいる、話に説得力を持たせるだけの国力を持っている数少ない地域の大国だからです。

 ウクライナ危機勃発以降、中国がEU、特にドイツとフランスとの対話と連携を重視するのもそのためです。そもそも欧州の安全保障をどうするかという問題なのだから、欧州が主導権を握るべき、中国はその流れをサポートするという立場です。

 3月8日の中・独・仏3カ国首脳会談に続いて、4月1日、習近平主席が中国・EU首脳会議に出席、「中国と欧州は世界平和を守るための2大勢力として、中欧関係の安定性をもって、国際情勢の不確実性に対応していかなければならない」と呼びかけています。米国に対してはネガティブキャンペーンを張る一方、ドイツ、フランスを中心に、欧州がウクライナ危機の解決に向けて果たしてきた努力を評価し、「欧・米」を切り離したい意図が透けて見えます。