東証再編で「コーポレートガバナンス・コード」順守がさらに強まる

 4月4日の東証再編で、東京証券取引所に上場する企業はプライム・スタンダード・グロースの3市場に分類されました。それぞれ上場基準が決められていて、プライムがもっとも厳しい基準となっています。

 3市場とも上場基準にコーポレートガバナンス・コード【注2】の順守が含まれています。グロース上場企業には「ガバナンス・コード基本原則のみ」適用されるのに対し、スタンダード上場企業には「全原則」適用が求められます。さらに、プライム上場企業には、「(一段高い水準の内容を含む)全原則」の適用が求められます。

【注2】コーポレートガバナンス・コード
 金融庁と東京証券取引所が共同で検討した内容に基づき、上場企業が順守すべき原則を定めたもの。上場企業は、それに従うか従わない場合はその理由を説明すること(Comply or Explain)が求められます。以下のコーポレートガバナンス・コードが現在、適用されています。
「コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)」

 株主平等の原則は、上記ガバナンス・コードの第1章「株主の権利・平等性の確保」に規定されており、「株主を保有株数に応じて平等に取り扱う」原則はその基本原則に定められています。つまり、グロース・スタンダート・プライムすべての上場企業に適用されます。

 株主平等の原則は会社法上の規定なので、ガバナンス・コードで定められていなくても上場企業は当然守らなければならないことです。ただし、ガバナンス・コードで定め、さらに上場基準として明記されることによって、その順守がさらに強く求められることになると考えられます。それにより、今後、JTのように「株主平等」の観点から株主優待を廃止する企業が増える可能性もあります。

参考1 サステナビリティ情報の開示義務について

 プライム上場企業に一番厳しい基準が適用されることを、サステナビリティ(持続可能性)情報の開示を例として説明します。
 グロース上場企業に適用される基本原則では「(ESG要素などを含む)非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである」とされているだけです。ただし、もっとも厳しい基準が適用されるプライム上場企業には、「気候変動にかかるリスクおよび収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである」とされています。たとえば、CO2排出について、自社排出量だけでなく自社のサプライチェーン全体での排出量の開示が必要となります。

参考2 投資家がESG情報を重視する理由

 世界的に株式投資においてESGを重視する流れが強まっています。ESGとは、E(環境経営)・S(社会的責任)・G(ガバナンス)の3つの頭文字をとって作った言葉です。近年、急速に注目が高まっているのはEですが、Eが注目されるよりはるかに早い時期から、Gは重視されていました。
 日本では数年前までESG投資は不人気でした。当時の投資家は「いくら社会的責任を立派に果たしている企業であっても、株価のパフォーマンスが良くなければ投資家として積極的に投資する気にはならない」と考えていました。
 ところが、近年風向きがはっきり変わりました。日本で年金基金など機関投資家が株式運用でESGスコアを重視するようになりました。投資信託でも、ESGを重視するファンドが大きな金額を集めるようになりました。
 なぜでしょう? 運用成績を犠牲にしてでもESGを重視すべきだと考える投資家が増えたということでしょうか? そうではありません。パフォーマンスを重視する投資家が、パフォーマンスを高めるためにESGを重視せざるを得ない時代になったからです。
 ESGで問題を起こした企業が、巨額の課徴金を科せられ、国際的に非難されて不買運動にさらされる例が増えたからです。ESG無視で高パフォーマンスをあげることが難しいことに機関投資家は気づいています。もっとも重視するのが、ガバナンス情報ですが、近年、環境経営も重要テーマとなっています。化石燃料ビジネスに携わる企業が環境税などを課せられるリスクが高まっていることによります。機関投資家では、一般の業種別アナリストとは別にESGを専任に分析するアナリストを置くところが増えてきています。