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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「【日本株】株主優待廃止が増える?東証再編で継続が難しくなる3つのタイプとは」
JT(日本たばこ産業)が株主優待を廃止
2月14日、JT(2914)が株主優待の廃止を発表しました。今期末(2022年12月末)で100株以上を1年以上継続保有している株主に自社製品(食品)などを贈る優待は継続しますが、それが最後となります。2023年以降は株主優待を廃止します。株主への利益還元を配当金に集約するとしています。
JTは、株主への利益配分にきわめて積極的な会社です。配当方針として、配当性向【注1】の目安を75%とする(±5%程度の範囲内で判断)と公表しています。日本企業の平均が約3割であることと比較してきわめて高い目標です。実際、過去3年、配当性向は73~88%と高い水準で推移しています。
【注1】配当性向
連結純利益の何%を配当金として株主に支払うか、その割合(%)。
(1株配当金)÷(1株当たり連結純利益)によって計算する。
それだけ株主への利益配分に積極的なJTが、なぜ株主優待を廃止するのでしょうか。同社は「株主優待制度の廃止に関するお知らせ」の中で、「株主の皆様への公平な利益還元のあり方という観点から慎重 に検討を重ねました結果、配当等による利益還元に集約することとし、株主優待制度を 廃止することといたしました」と説明しています。
株主優待は株主平等の原則に抵触?
上場企業は、会社法の規定で「株主平等の原則」に従う義務を負っています。株主平等の原則とは、「自らの株主を、その保有する株式の内容および数に応じて平等に取り扱わなければならない」とする原則です。
ここで重要なのは、「保有する株式数に応じて」平等ということです。10人株主がいたとして、10人が1人ずつ平等に扱われるという意味ではありません。10人が保有する「100株当たり」の権利が平等でなければならないという意味です。
普通株式1,000株保有する株主は、100株保有する株主よりも10倍の経済メリットを受けなければなりません。配当金は実際そうなっています。1株当たりの配当金が200円ならば、100株保有する株主は2万円の配当金(貸株に出している場合は配当相当額)を受け取る権利が得られますが、1,000株保有していればその10倍の20万円を受け取る権利が得られます。
ところが、株主優待はそうなっていません。株主優待制度は、小口投資家(主に個人株主家)に有利、大口投資家(主に機関投資家)に不利な内容となっています。そのため、機関投資家には、株主優待制度に反対しているところが多数あります。
以下は、典型的な優待の一例です。
A社の優待内容
期末の株主名簿に記載されている株主に以下の自社製品を贈る。
上記の優待内容から、100株当たり、どれだけの金額の優待を受けられるかを計算したのが、以下の表です。
ご覧いただくと分かるとおり、100株当たりの経済メリット享受額は、最小単位(100株)を保有する株主が1,000円で最大です。保有株数の大きい株主は、100株当たりの優待受け取りが小さくなります。つまり、株主優待制度は、小額投資の個人株主を優遇するものであることが分かります。
ただし、これだけで即、株主平等の原則に抵触していると決まるわけではありません。優待を実施している多くの日本企業は株主を潜在顧客ととらえ、自社製品やサービスを優待品として提供することで、自社製品やサービスを知ってもらい販売促進につなげることも狙っています。販売促進に貢献すれば、全社の利益が拡大し、すべての株主の利益につながるので問題ありません。優待を実施する企業に、小売りや食品、電鉄など消費・サービス産業が多く、自社製品やサービスを優待に提供する例が多いのは、そのためです。
株主総会でおみやげ品を出す企業が減少
上場企業の株主総会ではかつて来場した株主に感謝の気持ちをこめて「おみやげ品」を渡すのが慣例でした。株主総会が集中する6月には「おみやげ品」を目当てに株主総会をはしごする個人株主もいました。
ところが、その慣例に異変が生じています。株主総会でのおみやげ品を廃止する企業が急増しています。「来場できる株主」だけにおみやげ品を渡すことが、「来場できない株主」を含めた株主平等の原則に反するとの疑義が出ているからです。
それにコロナ禍が追い打ちをかけました。昨年6月の株主総会では、「密」を避けるために来場者数をしぼる例が増えました。株主総会をオンライン配信に切り替える例も少数ですが出てきています。コロナ禍による環境変化に加え、株主平等原則への配慮も加わって、株主総会のおみやげ品は廃止が増えています。
東証再編で「コーポレートガバナンス・コード」順守がさらに強まる
4月4日の東証再編で、東京証券取引所に上場する企業はプライム・スタンダード・グロースの3市場に分類されました。それぞれ上場基準が決められていて、プライムがもっとも厳しい基準となっています。
3市場とも上場基準にコーポレートガバナンス・コード【注2】の順守が含まれています。グロース上場企業には「ガバナンス・コード基本原則のみ」適用されるのに対し、スタンダード上場企業には「全原則」適用が求められます。さらに、プライム上場企業には、「(一段高い水準の内容を含む)全原則」の適用が求められます。
【注2】コーポレートガバナンス・コード
金融庁と東京証券取引所が共同で検討した内容に基づき、上場企業が順守すべき原則を定めたもの。上場企業は、それに従うか従わない場合はその理由を説明すること(Comply or Explain)が求められます。以下のコーポレートガバナンス・コードが現在、適用されています。
「コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)」
株主平等の原則は、上記ガバナンス・コードの第1章「株主の権利・平等性の確保」に規定されており、「株主を保有株数に応じて平等に取り扱う」原則はその基本原則に定められています。つまり、グロース・スタンダート・プライムすべての上場企業に適用されます。
株主平等の原則は会社法上の規定なので、ガバナンス・コードで定められていなくても上場企業は当然守らなければならないことです。ただし、ガバナンス・コードで定め、さらに上場基準として明記されることによって、その順守がさらに強く求められることになると考えられます。それにより、今後、JTのように「株主平等」の観点から株主優待を廃止する企業が増える可能性もあります。
参考1 サステナビリティ情報の開示義務について
プライム上場企業に一番厳しい基準が適用されることを、サステナビリティ(持続可能性)情報の開示を例として説明します。
グロース上場企業に適用される基本原則では「(ESG要素などを含む)非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである」とされているだけです。ただし、もっとも厳しい基準が適用されるプライム上場企業には、「気候変動にかかるリスクおよび収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである」とされています。たとえば、CO2排出について、自社排出量だけでなく自社のサプライチェーン全体での排出量の開示が必要となります。
参考2 投資家がESG情報を重視する理由
世界的に株式投資においてESGを重視する流れが強まっています。ESGとは、E(環境経営)・S(社会的責任)・G(ガバナンス)の3つの頭文字をとって作った言葉です。近年、急速に注目が高まっているのはEですが、Eが注目されるよりはるかに早い時期から、Gは重視されていました。
日本では数年前までESG投資は不人気でした。当時の投資家は「いくら社会的責任を立派に果たしている企業であっても、株価のパフォーマンスが良くなければ投資家として積極的に投資する気にはならない」と考えていました。
ところが、近年風向きがはっきり変わりました。日本で年金基金など機関投資家が株式運用でESGスコアを重視するようになりました。投資信託でも、ESGを重視するファンドが大きな金額を集めるようになりました。
なぜでしょう? 運用成績を犠牲にしてでもESGを重視すべきだと考える投資家が増えたということでしょうか? そうではありません。パフォーマンスを重視する投資家が、パフォーマンスを高めるためにESGを重視せざるを得ない時代になったからです。
ESGで問題を起こした企業が、巨額の課徴金を科せられ、国際的に非難されて不買運動にさらされる例が増えたからです。ESG無視で高パフォーマンスをあげることが難しいことに機関投資家は気づいています。もっとも重視するのが、ガバナンス情報ですが、近年、環境経営も重要テーマとなっています。化石燃料ビジネスに携わる企業が環境税などを課せられるリスクが高まっていることによります。機関投資家では、一般の業種別アナリストとは別にESGを専任に分析するアナリストを置くところが増えてきています。
東証再編で継続が難しくなると考えられる株主優待、3つのタイプ
株主平等の原則に抵触すると見なされるリスクが高い優待は、廃止になる可能性もあります。リスクが高いと考える3つのタイプについて説明する前に、上場企業が優待を実施する目的について、改めて説明します。上場企業が、小口投資の個人投資家を優遇する株主優待を行う理由は、2つあります。
1 個人株主数を増やしたい
上場企業の上場維持基準の1つに、株主数があります。グロース上場企業で150人以上、スタンダードで400人以上、プライムで800人以上の株主が必要です。機関投資家の保有が増えすぎると、株主数が足りなくなる可能性があります。そうならないように、上場企業は個人株主の数を増やそうとします。
2 自社製品・サービスのファンを増やしたい
株主を潜在顧客ととらえて、自社製品やサービスを提供することでファンを増やそうとしています。
以上を踏まえた上で、今後継続するのが難しくなると私が考える優待の3つのタイプを説明します。以下です。
【タイプ1】自社製品・サービス以外を優待品として贈呈するケース
自社の事業とまったく無関係の製品・サービスを贈呈することは、平等の原則に反するとみなされる可能性があります。特に、QUOカードなど現金に近いものを小口株主優遇で贈呈することは、自社ビジネスとの関わりを説明できない限り、平等の原則に反するとみなされるリスクがあります。
一方、自社製品の贈呈、あるいは自社製品・サービスの購入に使える金券・割引券などの贈呈、自社サービスを使って提供される商品の贈呈などは、販促活動の一環とみなされるので、問題にならないと判断しています。
【タイプ2】配当金と比較して、株主優待のメリットが大きすぎるケース
100株以上保有する株主に4,000円相当の自社製品詰め合わせを贈呈する企業を考えてください。その企業の1株当たり配当金が6円だったとしましょう。100株保有する株主は、1年間に4,000円相当の優待を得つつ、配当金は600円(税引前)しか得られないことになります。それでは配当金に比べて、優待が大きすぎます。
10万株保有する株主も、優待は4,000円相当で変わらないので、株主平等の原則に反するとみなされるリスクがあります。
【タイプ3】業績や財務に問題がある企業が優待を継続するケース
業績や財務の悪化で減配を余儀なくされる企業が、優待をそのまま維持していると、株主平等の原則に反すると見なされる可能性があります。
あくまでも私見ですが、以上が、東証再編で継続が難しくなる優待の3つのタイプです。なお、このレポートでは、3つのタイプに該当する具体的な銘柄名はあげません。なぜならば、3つのタイプに該当するといっても、経営者の考えによって優待が維持される場合もあるからです。またその逆で、3つのケースに該当しなくても優待が廃止されることもあります。経営者の考え方を推し量ることはできません。
読者の皆様はそれぞれ、ご自身で保有する優待銘柄が、上記3つのタイプに該当するか否か考えてください。また、いつものお願いですが、最終的な投資判断はご自身でなさってください。
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