生前贈与の最大のメリットは「相続税の軽減」

 前回のコラム(「これからの相続税対策(1)不動産より金融資産運用を勧める理由」)にて、これからあるべき相続税対策は、金融資産運用により相続税を支払っても問題ないほど資産を増やすことだ、と筆者は考えているとお話ししました。

 そしてこの金融資産運用による資産極大化を、生前贈与の仕組みにより行う方法について今回はご紹介したいと思います。

 なお、贈与税・相続税の抜本的な税制改正により、生前贈与の税制にメスが入ることが以前から指摘されていますが、少なくとも2022年中においては従来通りの税制となっていますので、それをベースとして話を進めてまいります。

 まず、生前贈与について簡単にご説明しておきます。相続税対策として生前贈与を行う最大の目的は、「生前贈与をして相続財産を減らせば相続税が軽減できる」という点です。

 相続開始前3年以内の贈与や、相続時精算課税を用いた贈与を除けば、贈与をすることにより相続財産が生前に相続人に移転することになり、その分相続税を減らすことができます。

節税メリットを生かし切れていない人がとても多い

 ただ、生前贈与をしている方は結構いるのですが、多くの方は年間110万円以内に贈与額を抑えています。

 なぜなら、贈与税の非課税枠は年間110万円であり、それを超えると贈与税がかかってしまうからです。

 でもそれでは節税メリットを十分に生かし切れていないことにお気づきでしょうか?

 確かに年間110万円以内に生前贈与の額を抑えれば、贈与税をかけず、かつ相続財産を減らして相続税を軽減することができます。

 でも、財産が多ければ多いほど、年間110万円という非課税枠の範囲内で生前贈与を行ったところで、移転できる金額は多くありませんから相続税の軽減効果はたかが知れています。

 ですから、贈与税を払ってでも、もっと多くの金額を生前贈与した方が、トータルでの節税メリットを享受できるのです。

 例えば親子間や祖父母・孫の間の贈与であれば、子ども1人あたり年間500万円の贈与の場合、贈与税は48万5,000円。税率に直すと10%弱です。

 もし、相続税の税率がこれより大きいのであれば、贈与税を支払ってでも生前贈与しておいた方が、トータルの税金は安くなるのです。

 実際、顧問税理士がついている方は、贈与税を払ってでもまとまった額の生前贈与をしているケースが多いです。

現金の贈与でももちろん節税メリットは生かせるが…

 さて、どんな財産を生前贈与するかといえば、圧倒的に多いのが現預金です。もちろん、現預金を生前贈与すれば、相続財産が減るため相続税も安くできますが、そのまま現預金のまま保有しただけでは、もらったお金が増えることもありません。

 また、贈与したお金を子どもが無駄遣いしてしまったり、贈与する側の思いとは異なる使い方をしてしまうケースもあります。そうなると、贈与する側も、相続税対策として有効ではあるものの、何となくもやもやした気持ちになってしまいかねません。

 そこで考えられる方法が、生前贈与したお金で資産運用をしてもらうというものです。

 資産運用の方法は個別株式でも投資信託でもよいですが、長期間保有してじっくり増やすという意味では投資信託の方がより向いていると思います。

贈与した資金を資産運用に回せばどちらに転んでもメリットあり

 資産運用にお金を回すことにより、必ず資産が増えるという保証はありませんが、過去のデータからみれば、運用する期間が長いほど、資産が増える可能性が高まります。

 例えば、毎年100万円ずつ30年間贈与して、年率6%で運用できれば、30年後には1億円に達する計算です。

 仮に資産運用の成果が想定通りいかず、マイナス運用になったとしても、生前贈与をした時点で相続税の節税効果は得られているわけですから、特に問題になることはありません。

 このように、資産運用に生前贈与の資金を充当すれば、それが大きく増えれば良し、仮に減ってしまっても節税効果はすでに享受しているのでそれもまた良し、というように、どちらに転んでもメリットがあります。

 子どもさんの代が、株式投資や投資信託に詳しくないというケースも多いでしょう。そんな時、子どもさんの証券口座を作って、そこに資金を入れて贈与をし、実際に運用に回すことは、子どもさんが金融資産運用について学ぶきっかけとして非常に有意義なことです。

 相続税の節税メリットも取れ、長期間の運用により資産の大幅増加も期待できる、さらには次世代が資産運用を学ぶきっかけとなる…。生前贈与資金を用いた金融資産運用をぜひ考えてみてください。