原油:ロシア分を補うことは難しい

 ここからは、原油について書きます。目下、米国と欧州の一部の国が、ロシア産の原油を買わないことを明言しています。米国はすでに輸入を停止し、英国は年末までに段階的に停止するとしています。

 以下の図のとおり、ロシアは世界の原油輸出シェア2位です。ロシア産の原油の半分以上が、欧州向けです。欧州の次に中国(欧州+中国でおよそ8割)、ロシアに対して強固な姿勢で制裁を科している米国は1%です。

図:世界の原油輸出シェア(2020年 数量ベース)

出所:BPのデータをもとに筆者作成

 仮に、西側の制裁が世界に完全に浸透し、ロシア産原油が世界の市場から消えた場合、現在ロシアから原油を輸入している国々は、合計日量527万バレルもの原油を新たに調達しなければなりません。これは1年間に換算すると19億2,355万バレルに相当します。欧州分はその53%にあたる10億2,253万バレル(日量280万バレル)です。

 例えば、現在米国が有する原油在庫は、商業在庫4億1,620万バレル、戦略備蓄5億7,770万バレルを足した、9億9,392万バレルです(EIA(米エネルギー情報局)のデータより 2022年2月時点)。仮に米国が原油在庫を全て欧州に放出した場合、約1年間、欧州はロシア産を全く買わなくても、持ちこたえられる計算です。

 とはいえ、油種の違いもさることながら、米国がすべての原油在庫を放出することは考えにくいでしょう。やはり、日量527万バレル、少なくても欧州分(日量280万バレル)に相当する量の増産が必要でしょう。

 以下は主要産油国の過去5年における最大生産量(月間ベース)と、直近(2022年2月)の原油生産量の差(現実的な増産余力)です。主要産油国が直近で行った最も大規模な生産を行うことで、ロシア産原油の不足分を補うことができるかを、調べました。

図:現実的な増産余力(直近5年間最大生産量ー直近生産量) 単位:千バレル/日量 

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 減産実施国(組織のルール上、生産量を自由に増加させにくい国)、制裁を受けている国(自らの意思で生産量を増やせない国)、超重質油を生産する国(精製時にコストが多めにかかり、現実的な代替になりにくい国)を除いた、有力国7カ国の現実的な増産余力は日量331万バレルでした。

 この量ではロシア分全量(日量527万バレル)を補うことはできません。欧州分のみ(日量280万バレル)であれば補うことは可能です。OPECプラスが追加の増産をしない理由については以前の「ウクライナ危機は「現実的悲観」へ?原油反落、金上昇」をご参照ください。

 ロシアの原油生産量の規模は大きく、それを在庫の取り崩しや増産で補うことは、難しいと筆者は考えます。米国のシェールオイルに期待が集まっていますが、上図は、主要メディアで報じられた日量100万バレル増産を加味しています。

 新しいウクライナ情勢のステージ「ウクライナ情勢2.0」では、ロシアの不足分を補えないかもしれない、という懸念が、原油価格を押し上げる場面が散見される可能性があります。足元の原油価格再反発もその一端である可能性があります。