中国のウクライナ危機への対応方針を今一度整理する

 過去の約1カ月、ウクライナ危機に対する中国の対応姿勢や方針、目標を適宜検証してきました。本レポートの主題である「中国がロシアへ軍事支援か?」を検証する上で重要な点であるため、今一度整理してみます。

 一つ目の姿勢が「静観」です。

 中国はウクライナ危機に深入りすることは危険だと考えています。理由は、中国はNATOの東方拡大、ウクライナのNATO加盟に反対する意味でロシアと立場を同じくしているものの、今回の危機が引き金となり、欧米をはじめとした西側諸国やウクライナとの関係も悪化させたくないからです。中国とウクライナは2022年に国交正常化30周年を迎え、経済や貿易、軍事といった分野で深い関係を築いてきた経緯があります。一定の距離を取って静観するしかないゆえんです。

 二つ目の姿勢が「あっせん」です。

 中国は国際連合の常任理事国であり、ユーラシア大陸の大国です。何もしないことは大国としての責任放棄につながり、それは中国の国益に符合しません。故に、中国は、王毅(ワン・イー)国務委員兼外相を中心に、ロシア、ウクライナ、欧州、米国を含めた各方面に外交的に働きかけ、停戦を呼び掛けているのです。ウクライナ侵攻が始まった2月24日から3月16日の間、王外相が各国(EU含む)の外相と行ったビデオ・電話会談は計18回に上ります。

 三つ目の姿勢が「研究」です。

 中国共産党指導部にとっての悲願は台湾統一です。先々週のレポート「中国が泥沼化するウクライナ危機から学ぶ三つの論点」で扱ったように、党指導部は、(a)米国がどのくらいの強度と速度で軍事介入してくるか、(b)国際的にどの程度の経済制裁を受けるか、(c)国内外の世論はどうなるかという三つの視点からウクライナ危機を観察し、武力行使を含めた台湾統一に向けて内的に研究を進めているのです。

 これら三つの姿勢を軸に、五つの目標がぶら下がっています。

中国が掲げる五つの目標

(1)ロシア、ウクライナ、欧米日を含む西側いずれとの関係も悪化させない
(2)外交的あっせんを展開し、危機の解決に貢献したという評価を得ることで国際的影響力と信用力を向上させる
(3)危機対応の副作用として、西側諸国から経済・金融制裁を受けないようにする
(4)中国経済への打撃を最小限にとどめ、米国が危機対応で疲弊した場合、それを戦略的契機と捉え、経済力、軍事力、国際的影響力・信用力といった国力の相対的強化につなげる
(5)台湾統一に向けてウクライナ危機からどんな示唆と教訓が得られるか徹底分析する

 以上のように整理できます。中国は政治の国です。経済、外交、軍事を含め、すべては習近平国家主席率いる中国共産党指導部の正統性が維持、強化されるかという視点から実践されます。ロシアを軍事支援するかというテーマも同様で、上記の三つの姿勢、五つの目標を前提に、自らの行動を決定していくのが常とう手段と言えます。