※今回の記事は緊急レポートとして公開しました。当連載「軋む中国 共産党と民主化、強大経済を読む」は毎週木曜日公開です。

 ウクライナ危機が収束しません。ウクライナ軍の予想以上の抵抗に遭い、「苦戦」を強いられているとされるロシア軍ですが、首都キーウ(キエフ)を陥落させるべく、軍事侵攻をやめません。4回の停戦協議が行われたものの、糸口は探し出せていません。

 そんな中舞い込んできたニュースが、「ロシアが中国へ軍事支援要請」というもの。中国がロシアに軍事支援するとなれば、ロシアとNATO(北大西洋条約機構)間のパワーバランスに影響を与え、危機はさらに深刻化するのではないか、という懸念が市場や世論で巻き起こっていきます。中国の真意は? 今回、解説していきます。

中国はロシアを「軍事支援」するのか?

 中国外交を統括する楊潔チ(ヤン・ジエチー)政治局委員は14日(現地時間)、米国のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)とイタリアのローマで約7時間に及ぶ会談に臨みました。

 会談において、米国側は「中国がロシアと連携することに強い懸念」を示したのに対し、中国側は「うその情報を流し、中国の立場をおとしめている」と反論。このやり取りが何を意味するか。

 私の理解からすれば、中国の政治家や官僚は、ランクが上に行けば行くほど、自らの中で理論武装ができていない限り、言語化することは基本ありません。共産党の序列でトップ25に入っている楊氏がサリバン氏に対し、「あなた方は中国に関する、事実ではない情報を流している」と言いました。中国として、何が「事実」なのかに関して確固たる自信がない限り、共産党の序列上位にあたる人物がこのように発言することはあり得ない、というのが私の考えです。

 中国とロシアの軍事関係というのは「運命共同体」といっても過言ではないほどに、兵器、人員、情報、作戦計画などをめぐって、常時緊密な連携を取っています。平時ですらそうなのですから、ウクライナで戦争が起きているような「有事」ではなおさらです。ロシア軍が中国軍に対し、ロシアの指導部が中国の指導部に対し、これまでの延長線として「軍事支援」を要請してくるのは当たり前です。何ら不思議ではありません。

 米国のバイデン政権は、ウクライナ侵攻を続けるロシアに対し、中国が軍事協力に前向きな考えを示した、という情報を入手し、外交公電で欧州やアジアの同盟国に伝えたと言います。しかし、私が推察するに、ウクライナ危機が起こる前も、起こった後も、中国とロシアの間では、双方向で軍事物資の供給や売買がなされています。

 現在はロシアがウクライナ戦で疲弊している状況ですから、言うまでもなく中国からロシアへの供給や売却が増加するのでしょう。中国側は西側諸国から経済・金融制裁を受けているロシア側に対し、「支払いはルーブルでも構わない。できれば人民元で」と言うことも予想できます。

 ただ、中国は「これはウクライナ危機に際したロシアへの軍事支援ではない。あくまでも従来の軍事交流の一環であり、両国間の軍事協定の枠組みで行われているもの」と理論武装するのが必至でしょう。従来の協定内で、中国がロシアから原油や天然ガス、小麦の購買を引き続き行う、ロシア側がディスカウントするのであれば輸入量を増やすのと同じ論理です。

 参考までに、この期間、ロシアとインドの間でも、兵器の購入を含めた緊密な軍事的連携が展開されています。また、現在インドがロシア産原油の輸入を検討していると報道されています。

 ロシアが割引価格で構わないと持ち掛けているからです。おそらく、決済はドルやユーロではなく、ルピーやルーブル、そして人民元の可能性すらあると私は推察しています。

 ロシアがウクライナ危機を乗り切るための抜け道を提供している地域の大国は、それが軍事か経済なのかは別として、中国だけではないという事実は明記しておくべきです。

 しかしながら、以上をもってしても、中国がロシアのウクライナへの軍事侵攻を公に支持することはないでしょう。中国は一貫してウクライナの主権と領土の一体性が尊重されるべきという立場を表明しています。私が本稿を執筆している3月16日時点で、中国政府は、赤十字協会を通じてウクライナへの人道主義的物資援助を3回行っています。食料、粉ミルク、掛け布団などが含まれます。

 中国は引き続きロシアとの軍事協力、ウクライナへの人道支援、米国や欧州(3月8日には、習近平(シー・ジンピン)主席がマクロン仏大統領、ショルツ独首相と3者サミットを開催)とのハイレベル協議を展開し、ウクライナ危機の早期収束と政治的解決に奔走していくものと思われます。

 以上の中国の真意を読み解くにあたり、私が重要だと考えるのが「三つの姿勢と五つの目標」です。

中国のウクライナ危機への対応方針を今一度整理する

 過去の約1カ月、ウクライナ危機に対する中国の対応姿勢や方針、目標を適宜検証してきました。本レポートの主題である「中国がロシアへ軍事支援か?」を検証する上で重要な点であるため、今一度整理してみます。

 一つ目の姿勢が「静観」です。

 中国はウクライナ危機に深入りすることは危険だと考えています。理由は、中国はNATOの東方拡大、ウクライナのNATO加盟に反対する意味でロシアと立場を同じくしているものの、今回の危機が引き金となり、欧米をはじめとした西側諸国やウクライナとの関係も悪化させたくないからです。中国とウクライナは2022年に国交正常化30周年を迎え、経済や貿易、軍事といった分野で深い関係を築いてきた経緯があります。一定の距離を取って静観するしかないゆえんです。

 二つ目の姿勢が「あっせん」です。

 中国は国際連合の常任理事国であり、ユーラシア大陸の大国です。何もしないことは大国としての責任放棄につながり、それは中国の国益に符合しません。故に、中国は、王毅(ワン・イー)国務委員兼外相を中心に、ロシア、ウクライナ、欧州、米国を含めた各方面に外交的に働きかけ、停戦を呼び掛けているのです。ウクライナ侵攻が始まった2月24日から3月16日の間、王外相が各国(EU含む)の外相と行ったビデオ・電話会談は計18回に上ります。

 三つ目の姿勢が「研究」です。

 中国共産党指導部にとっての悲願は台湾統一です。先々週のレポート「中国が泥沼化するウクライナ危機から学ぶ三つの論点」で扱ったように、党指導部は、(a)米国がどのくらいの強度と速度で軍事介入してくるか、(b)国際的にどの程度の経済制裁を受けるか、(c)国内外の世論はどうなるかという三つの視点からウクライナ危機を観察し、武力行使を含めた台湾統一に向けて内的に研究を進めているのです。

 これら三つの姿勢を軸に、五つの目標がぶら下がっています。

中国が掲げる五つの目標

(1)ロシア、ウクライナ、欧米日を含む西側いずれとの関係も悪化させない
(2)外交的あっせんを展開し、危機の解決に貢献したという評価を得ることで国際的影響力と信用力を向上させる
(3)危機対応の副作用として、西側諸国から経済・金融制裁を受けないようにする
(4)中国経済への打撃を最小限にとどめ、米国が危機対応で疲弊した場合、それを戦略的契機と捉え、経済力、軍事力、国際的影響力・信用力といった国力の相対的強化につなげる
(5)台湾統一に向けてウクライナ危機からどんな示唆と教訓が得られるか徹底分析する

 以上のように整理できます。中国は政治の国です。経済、外交、軍事を含め、すべては習近平国家主席率いる中国共産党指導部の正統性が維持、強化されるかという視点から実践されます。ロシアを軍事支援するかというテーマも同様で、上記の三つの姿勢、五つの目標を前提に、自らの行動を決定していくのが常とう手段と言えます。

中国とロシアの軍事関係はどんな経緯をたどってきたか?

 最後に、そもそも中国とロシアが近年どのような軍事的関係を構築してきたのかを整理してみましょう。この点を検証せずに、「中国のロシアへの軍事支援」を議論しても地に足のついた結論は導き出せないからです。

 最初に述べたように、中ロ両軍の関係は極めて緊密な状況にあります。それを裏付けるいくつかの例を挙げてみましょう。

 2021年11月、魏鳳和(ウェイ・フェンハー)国務委員兼国防部長(国防相)とプーチン大統領の側近とされるショイグ国防相がビデオ会談を開催、次のような認識で一致しています。

「今年、中ロ両軍は各分野で実務協力を深く推し進めた。特に合同演習分野で新たなブレイクスルーと発展を遂げた。中ロの団結は山のごとく、友情は盤石のように堅固だ。中ロは手を携えて両国首脳間の重要な合意を全面的に実行し、両軍間の戦略的協力を深め、引き続き戦略演習と合同巡航面の協力を強化して、両国の核心的利益を守り、世界と地域の安全と安定を維持するために絶えず新たな貢献を果たしていく所存である」

 中ロ国防省は1993年に最初の軍事協定に署名して以来、技術や人員の交流を展開、2005年からは定期的に合同軍事演習を実践してきました。この期間、ロシアは中国に対し、最新鋭対空ミサイルシステムS400、最新鋭戦闘機SU35などを供給、あるいは売却しています。例として、2014年、両国は30億米ドルの武器供給に署名、2016年には30億米ドル相当の軍事合意が履行されています。

 中国人民解放軍は2018~2019年、2年連続でロシアの軍事演習に参加しました。2020年12月には、両国は軍事協定の延長議定書に署名。期間は10年。双方が弾道ミサイルやロケット弾を発射する際には事前に通報するといった事項が含まれています。2021年10月、中ロ両軍が初の「海上合同パトロール」を実施、ロシア極東ウラジオストク沖から出発し、津軽海峡を通過して太平洋を南下。鹿児島県の大隅半島と種子島の間の大隅海峡を通って東シナ海に抜けています。

 最後に、2022年1月、中ロはイランを交えてインド洋北部で合同軍事演習を行っています。

 以上、中ロの軍事関係・交流を整理してきましたが、今後の焦点は、三つの姿勢と五つの目標に体現されるように、一見「いいとこどり」に映る中国の言動と作戦がどこまで現実に耐えうるのか否かです。仮に耐えられないと党指導部が判断した場合、西側に見切りをつける、ロシアと距離を置くといった対策を取ることがあるのかどうか。事態は流動的かつ不確実です。適宜分析をアップデートしていきたいと思います。