投資家はどう行動したらいいか

 さて、ウクライナで大規模な軍事衝突が起こった現在、投資家はどう考えたらいいだろうか。投資行動を決定するための前提条件を簡単に整理すると以下の通りだ。

(1)全世界的に資本市場のボラティリティ(価格の変動性)が拡大している。
(2)紛争が損失につながる業界・国と、利益につながる業界・国とが存在する。
(3)インフレ率の上昇はFRBをはじめとする中央銀行の金融引き締めを後押しする可能性がありこれ自体が悪材料だが、相当程度織り込まれてもいる。
(4)戦火の拡大も、意外に早い終結もあり得る。
(5)経済制裁の間接的影響や金融引き締めによって金融的なショック(大手金融機関の破綻など)が起こるリスクが(大きくはないが、全くの無視はできない程度に)存在する。
(6)何らかのパニックが起こった場合、株式のリスク・プレミアムが拡大して、期待リターンが上昇する可能性がある。
(7)投資行動は(原則として)好き嫌いの感情と切り離して決定するべきだ。

 投資行動への影響は、(1)はリスクポジションを落とす要因、(2)は分散投資で対応すべき要因、(3)は中立ないし金融引き締めの影響の織り込み不足を若干心配させる要因、(4)は中立要因、(5)はリスク・シナリオとして意識しておくべき要因、(6)は確実ではないが一般論、(7)は合理性の観点からは動かない真理、ということになるだろう。

(2)、(4)を考えると、投資対象は広く分散されている方がいい。リスク資産としては全世界株式のインデックス・ファンドをお勧めする。

 次に、(1)と(3)を考えると、平時に適切なリスク資産のポジションよりも「若干」リスクを縮小することに合理性があるかも知れない。但し、平時のリスク額のせいぜい1割、最大で2割減くらいまでの調節が合理的な限度だと申し上げておく。マーケット・タイミングで「上手くやる」ことは見かけ以上に難しい。

 投資ストラテジーの提示として「何々が起きた場合には…」という条件付きの表現は好ましくないのだが、不確実性が高まっている状況なので敢えて言うなら、(5)、(6)を考えると、「何らかのパニック的な暴落が起こった場合には、リスク資産を買い増しするぞ」というファイティング・ポーズを取りながら、日々の相場を眺めるのがいいと思う。

 ざっくりと10年に一度程度訪れる暴落局面は、絶好の「買い場」になる場合が多い。暴落を楽しみに思えるくらいの、ほどほどのリスクと、精神的余裕は投資家の態度として悪くない。

 ここで読者が、「資産運用は環境に応じて調整すべきものだ」とお考えなら、「ちがう!」と申し上げたい。なぜなら、「調整」は上手く行かないことの方が多いからだ。これは、プロの運用の世界でも同様だ。上記のような細かな調節をせずに、リスク資産を淡々と長期保有するという方針で構わないはずだ。但し、投資対象は、1.広く分散投資されていて、2.手数料コストの小さなもの、に限る。

 全世界株式のインデックス・ファンド(投資信託ないしはETF)をじっくり持って、日々の人生の充実を図りつつ、世界平和を願うのがいい。