懸念収まらず。もう一段の価格上昇は起き得る

 主要国が国際的な銀行決済システムからロシアの主要銀行を排除したことは、敵対する国からものを買わない、「不買による制裁」の意味があります。また、ガバナンスを重視してビジネスから撤退することは、敵対する国の産業を弱体化させて輸出品目の生産量を低下させる、「収益機会はく奪による制裁」の意味があります。

 制裁の意図は、敵対する国を経済・政治など、さまざまな側面から追い込むことにあります。不買も収益機会はく奪も、敵対する国を追い込む効果があるため、2月24日(木)ウクライナ侵攻直後、事態を重く見た欧米を中心とした主要国は制裁実施に踏み切ったわけです。

 こうした動きを受け、主要なグローバル企業はガバナンス重視姿勢を鮮明にし、ロシアからのビジネス撤退に踏み切りました。

 筆者はいまのところ、足元の原油価格の急騰について、真の要因は「制裁」と「ガバナンス重視」がもたらす供給減少懸念(キーワード2「主要国がロシアに対し制裁発動」とキーワード3「主要エネルギー企業がガバナンスを重視」起因の合計3つの供給減少懸念)であると、考えています。これらが強化されたタイミングから、原油相場の上昇が加速し始めたためです。

 合計3つの供給懸念とは、主要国によるさまざまな制裁への対抗措置として、ロシアが意図的にエネルギーの供給量を減少させること、国際的な銀行決済システムからロシアの主要銀行が排除されることで、世界のさまざまな国がロシア産のエネルギーを購入しにくくなること、ガバナンス(企業統治)を重視した主要なエネルギー企業がロシアでのビジネスから相次いで撤退し、ロシアのエネルギー産業が縮小する(=エネルギー生産量が減少する)ことです。

 2月24日(木)のウクライナへの侵攻開始直後、瞬間的に100ドルに達したものの、翌日には90ドル台に下落しました。猛然と上昇し始め、あっという間に100ドルを超えたのは、「制裁」と「ガバナンス重視」が目立ち始めた今週の前半からです。

「数量」を重視し、「価格」への考慮が追い付いていないことは、足元の「制裁」と「ガバナンス重視」の盲点と言えるでしょう。

 また、不買や収益機会はく奪の対象となっている品目が「エネルギー」という、世界の大多数の個人の暮らしや企業の活動を維持するのに欠かせないものであることへの考慮も追いついていないように感じます。

 今回述べた、「足元の急騰」の要因(5つの供給減少懸念の「同時発生」)は、あくまでも短期的な要素であり、根底には中期的な上昇要因が、別途存在していると考えています。中期的な上昇要因を含んだ原油市場を取り巻く全体像については、次回以降、述べます。

今後の原油相場について(短期的視点):
 イラン核合意が進展する観測が浮上し、同国の原油生産量が回復するとの見方から、原油価格はやや反落しましたが(日本時間3月4日午前8時時点で108ドル近辺)、本レポートで述べた5つの供給減少懸念は、今後も継続する可能性があります。このため筆者は現時点で、短期的には原油相場は高止まり、あるいはもう一段高となる可能性があると、考えています。

[参考]コモディティ(全般)関連の具体的な投資商品

投資信託

eMAXISプラスコモディティインデックス

SMTAMコモディティ・オープン

iシェアーズコモディティインデックスファンド

ダイワ/「RICI(R)」コモディティ・ファンド

DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Aコース(為替ヘッジあり)

DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Bコース(為替ヘッジなし)

外国株

iPathピュア・ベータ・ブロード・コモディティ(BCM)

インベスコDB コモディティ・インデックス・トラッキング・ファンド(DBC)

iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN(DJP)

iシェアーズ S&P GSCI コモディティ・インデックス・トラスト(GSG)