台湾統一に向けて、中国がウクライナ危機から学ぶ三つの論点

 ウクライナ危機解決に向けて外交的にコミットしていくのと同時に、中国共産党指導部は、公の場ではおくびにも出しませんが、台湾問題の解決に向けて構想を練り、その過程で、米国の動きを注視しています。ウクライナ危機を受けて、仮に台湾有事が発生した場合、中国が気にするのは大まかに3点でしょう。

(1)米国がどのくらいの強度と速度で軍事介入してくるか
(2)国際的にどの程度の制裁を受けるか
(3)世論はどうなるか

 (1)については、ウクライナは台湾ではなく、ロシアは中国ではないですから、単純な比較や参照はできませんが、今回、米国はウクライナがNATO加盟国ではないという理由で、ウクライナへの軍事介入を拒否しました。ロシアが核保有国ということもあり、仮に軍事的に介入すれば、下手をすれば核の使用を伴った第三次世界大戦に発展してしまうという危機感も作用したでしょう。

 では台湾ではどうなのか。中国は核保有国です。米中が台湾海峡で武力衝突したとして、それは第三次世界大戦にはならないのか。少なくともそう言える根拠はありません。共産党と解放軍が、ウクライナ危機を経て、米国の台湾海峡への軍事介入の可能性をどう見積もっていくかが一つの鍵を握ります。仮に「介入してこない」と確信を持てば、武力による統一に向けてかじを切る可能性は高くなります。

 (2)について、中国はロシアが遭遇している各国、各分野における制裁を見て、「明日はわが身」という思いを強くしたに違いありません。もちろん、世界第二の経済大国である中国と、広東省ほどの経済力しか持たないロシアでは世界経済における重要度は異なります。中国経済と世界経済は、サプライチェーン(供給網)、バリューチェーン(価値の連鎖)という意味で切っても切れない関係になっています。中国に経済的制裁を加えることによって、加えた側が被る損失は、ロシアの比較ではないでしょう。

 ただ一方で、経済成長は中国共産党の正統性にとって最重要事項なわけで、外交的孤立が経済の激的衰退を招けば、中国の国民はお上を信用しなくなる、ついて行かなくなる統治リスクに見舞われます。そのあたりをどう見積もるかが重要になってきます。

 (3)について、今回のウクライナ危機では、ウクライナ人はもちろん、多くのロシア人も「プーチンの戦争」に異を唱え、抗議デモを繰り返しています。私の友人のロシア人が言っていました。

「ウクライナ人は、ロシアのために戦っているのだ」

 要するに、プーチンという「独裁者」はロシア人にとっても都合がよくない指導者だという意味です。仮にロシアがウクライナを軍事的に制圧し、実質支配下においたとして、ウクライナ人はプーチンによる統治を受け入れるでしょうか。ロシア人は引き続きプーチンをお上として支持し続けるでしょうか。国際世論が反ロシアに傾くのは論を待ちません。ロシア指導部が四面楚歌(そか)の苦境に陥るのは必至です。

 そして、この苦境は習近平氏率いる中国共産党にも起こり得るということです。私の見方では、多くの中国人は武力による台湾統一を支持すると思います。国内で反習近平の抗議デモも起こり得ません。ただ、武力行使された台湾人が中国共産党の統治を受け入れるはずがなく、国際世論も一気に反中に傾き、多くの外資は中国市場から徹底するでしょう。

 このように、中国は、ウクライナ危機を静観しつつ、不確定な近未来に起こり得る、祖国をめぐる「危機」に向けて、さまざまなシミュレーションを繰り返しているものと思われます。