移民の歌

 米国の労働市場で、なぜ雇用者が増えなくなったのか。

 この「雇用統計詳細レポート」でも何度も取り上げているのですが、ベビーブーマー世代が一斉に定年を迎えていることや、働き盛りの世代のFIRE(経済的自立と早期リタイア)が、米株価が史上最高値をつけるなかで増えていること、あるいは、新型コロナによる生活スタイルの変化で、仕事よりも育児を選んだり、働く親に代わって孫の面倒を引き受けたりするシニア世代が多くなっていることなどがその理由といわれています。

 しかし、あまり知られていないのが「移民」です。

 アメリカの移民問題といえば、メキシコ国境から米国への不法越境者や中南米諸国からの非合法移民のことをイメージします。米国内の犯罪増加と不法移民増加の関係が指摘され、米大統領選挙でも移民流入を阻止する政策(国境の壁など)がたびたび争点になっています。

 しかし雇用市場で問題となっているのは、不法移民のことではなく「合法移民」。米国で正規に働く外国人が減っていることです。「移民の増加」ではなく、「移民の喪失」が労働市場の雇用者が増加しない原因のひとつといわれています。

 40年前の米労働市場では、米国人を親に持つ米国生まれの米国人であるベビーブーマー世代が生産年齢人口のほとんどを占めていました。

 しかし、その後20年間で、生産年齢人口を構成する半分が移民によって賄われるようになった。海外で生まれて米国に居住する人口4,400万人のうち、約4分の3が合法的な移民。米国の労働者の約15%を合法移民が占める計算になります。

 これからの時代はベビーブーマー世代が労働市場から続々と退場していくので、移民頼みがさらに大きくなることは明らかです。彼らの半数が大卒だとすると、外国人労働者の不足は、飲食業や接客業だけではなく、高スキルが要求されるテクノロジー産業にとっても深刻な問題です。

 合法移民の減少の理由のひとつは、新型コロナによる入国制限。労働ビザ発給が通常に戻るにつれて、不足はある程度解消に向かうことが期待できます。

 しかし、米政府は基本的に移民の受け入れに消極的で、その方針はバイデン政権になってからも大きな変化がない。移民不足による労働供給問題は、長期化かつ深刻化する可能性が高いのです。

 外国人労働者が大挙して米国の雇用市場に戻って来るという「期待」は、もはや単なる「希望」になってしまいました。しかし、これをアメリカだけの問題と片付けてはいけない。今日の米雇用市場の問題は、明日の日本の問題です。