過去3カ月の推移と今回の予想値

※矢印は、前月からの変化

1月雇用統計のレビュー

 BLS(米労働省労働統計局)が2月4日に発表した1月雇用統計では、NFP(非農業部門雇用者数)は、市場予想(+15.0万人)を大きく上回る46.7万人増加となりました。さらに前回12月のNFPも+19.9万人から+51.0万人に大幅上方修正。

 事前に発表された民間版雇用統計のADP雇用データが弱かったため、雇用者がマイナスに落ち込むことも予想されたなかで、サプライズの強い結果となりました。オミクロン株感染拡大による雇用の影響は懸念ほどではなく、レジャー・サービス業、小売業や運輸業で引き続き雇用の増加が確認されました。

 失業率は、前月の3.9%から4.0%へ若干上昇。コロナ流行後の2020年4月に14.7%まであった失業率は、2019年9月に記録した過去最低水準の3.5%を目指して下落しています。平均労働賃金も、前月比+0.7%、前年比+5.7%と堅調。

2月雇用統計の予想

 BLSが3月4日に発表する2月の雇用統計は、市場予想によると、NFPは+40.0万人、失業率は3.9%。平均労働賃金は、前月比+0.5%、前年比+5.8%の予想となっています。

 昨年1月から12月までの雇用者増加者数は月平均49.4万人なので、労働者が雇用市場に戻るペースは強いとはいえない。一方で、賃金を引き上げることで「残り少ない」労働者を確保しようとするため、平均労働賃金の強さが目立ちます。

 いったん解雇すると次に採用することが難しくなるため、たとえ仕事がなくても人材を手元に置いておく会社が増えているようです。その意味では、雇用統計の数値は、「雇用が増えた」というよりも「解雇が減った」という視点から分析するべきかもしれません。

 FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策は、雇用安定から物価安定を重視する政策に完全に切り替わっているので、失業率やNFPが多少悪化したところで、利上げを中止するということにはなりません。ウクライナ戦争も、エネルギー価格の高騰という形で表れている限り、利上げを見送る材料にはならない。

 パウエル議長は、雇用促進とインフレ対策のトレードオフ(失業率を低めようとすれば物価の上昇圧力が強まり、物価を安定させようとすれば失業率が高まる)において、インフレが可処分所得を圧迫し、政策が支援すべき人々にダメージを与えているかどうかが、FRBの判断基準だと述べています。

 その結果、米国経済はもう十分に回復したので、これ以上流動性を増やすのは適当ではないとの結論に至ったのです。

移民の歌

 米国の労働市場で、なぜ雇用者が増えなくなったのか。

 この「雇用統計詳細レポート」でも何度も取り上げているのですが、ベビーブーマー世代が一斉に定年を迎えていることや、働き盛りの世代のFIRE(経済的自立と早期リタイア)が、米株価が史上最高値をつけるなかで増えていること、あるいは、新型コロナによる生活スタイルの変化で、仕事よりも育児を選んだり、働く親に代わって孫の面倒を引き受けたりするシニア世代が多くなっていることなどがその理由といわれています。

 しかし、あまり知られていないのが「移民」です。

 アメリカの移民問題といえば、メキシコ国境から米国への不法越境者や中南米諸国からの非合法移民のことをイメージします。米国内の犯罪増加と不法移民増加の関係が指摘され、米大統領選挙でも移民流入を阻止する政策(国境の壁など)がたびたび争点になっています。

 しかし雇用市場で問題となっているのは、不法移民のことではなく「合法移民」。米国で正規に働く外国人が減っていることです。「移民の増加」ではなく、「移民の喪失」が労働市場の雇用者が増加しない原因のひとつといわれています。

 40年前の米労働市場では、米国人を親に持つ米国生まれの米国人であるベビーブーマー世代が生産年齢人口のほとんどを占めていました。

 しかし、その後20年間で、生産年齢人口を構成する半分が移民によって賄われるようになった。海外で生まれて米国に居住する人口4,400万人のうち、約4分の3が合法的な移民。米国の労働者の約15%を合法移民が占める計算になります。

 これからの時代はベビーブーマー世代が労働市場から続々と退場していくので、移民頼みがさらに大きくなることは明らかです。彼らの半数が大卒だとすると、外国人労働者の不足は、飲食業や接客業だけではなく、高スキルが要求されるテクノロジー産業にとっても深刻な問題です。

 合法移民の減少の理由のひとつは、新型コロナによる入国制限。労働ビザ発給が通常に戻るにつれて、不足はある程度解消に向かうことが期待できます。

 しかし、米政府は基本的に移民の受け入れに消極的で、その方針はバイデン政権になってからも大きな変化がない。移民不足による労働供給問題は、長期化かつ深刻化する可能性が高いのです。

 外国人労働者が大挙して米国の雇用市場に戻って来るという「期待」は、もはや単なる「希望」になってしまいました。しかし、これをアメリカだけの問題と片付けてはいけない。今日の米雇用市場の問題は、明日の日本の問題です。