中国とロシアは“共謀”か?台湾有事に発展の可能性は

 各国政府や市場関係者の間で、「中国とロシアは反米の一点で“共謀”を図る関係にある」という見方が根強いように見受けられます。先日も、欧州議会の議員と話をした際、「中国はウクライナ問題でロシアを支持し、台湾問題でロシアの支持を得ようとしている」と断言していました。

 私としても、プーチン、習近平両氏の「蜜月」を基に、ロシアと中国が互いの政治体制を尊重し、多くの国際問題や地政学的課題(例えば北朝鮮やイラン問題)で共働する姿勢を疑うわけではありません。とはいうものの、中国が「親ロ・反米」政策を取っているわけはありません。通商や人権問題で攻防を繰り広げる米中ですが、冷戦期の米ソ関係とは次元が異なります。

 中国外交が最も重視する方針は、(1)米国という超大国との関係を安定的に管理しつつ、(2)自国の核心的利益(台湾、香港、新疆ウイグル、チベット、および中国の特色ある社会主義という政治体制など)を死守する、というものです。(2)でロシアの尊重や支持は得られるでしょうが、それがすなわち(1)の解決にはなりません。米国と対話、協調していく以外に道はないのです。

 ウクライナ問題でロシアの軍事侵攻を支持することは、米国の国益と真っ向から対立することを意味します。そんな愚かな政策を中国は打ち出しませんし、現に、中国がそれを支持したことはありません。ロシアに対して、軍事行動には慎重になり、あくまでも政治的に解決するように首脳会談や外交ルートを通じて促しています。ウクライナ問題で対米関係を悪化させるつもりなど中国には毛頭ないのです。

 そんな中国が、ロシアとの間で、ウクライナ問題と台湾問題で、「ウクライナへの軍事侵攻を支持するから台湾への軍事侵攻を支持してくれ」というバーター取引をするでしょうか。

 中国の党・政府・軍関係者との議論を経た私の結論は、あり得ない、です。

 習主席率いる中国共産党は、台湾問題を武力で解決する可能性を否定しないものの、大きな方向性としては、米国との関係を安定的に管理した上で、台湾海峡の平和と安定を保ち、この問題を政治的に解決したいと考えています。それに、ロシアの支持を得ることで、米国との軍事力や価値観の衝突を内包する台湾問題の解決を有利に進められるとも考えていません。

 以上から、最後に私の考えを2点に整理します。

(1)中国がウクライナ問題でロシアの軍事侵攻を支持し、米国と対立することはない。中国のこのスタンスは、ウクライナ危機の緩和や回避に有利に働く。
(2)欧州におけるウクライナ危機の勃発は「台湾有事」を誘発しない。両者は別物。ロシアと共働しつつ、米国との関係を安定的に管理するのが中国の外交方針である。