中国はウクライナが「親ロシア国」になることを望んでいない

 中国はこのような現状をどう見ているのでしょうか。

 張軍(ジャン・ジュン)中国駐国連大使は1月31日、国際連合安全保障理事会のウクライナ情勢に関する協議に参加し、中国政府の立場を明確に表すコメントを発表しています。以下、三つの要点を書き留めます。

(1)ウクライナで戦争は起きていない。ロシアは戦争をする計画を持たず、ウクライナも戦争を望んでいないと公言している。米国は安易に戦争をあおる言動を取るべきではない。

(2)現在、米国、ウクライナ、欧州国家やNATOが、ロシアとあらゆるチャネルで外交交渉を重ねている。外交交渉で問題解決を図るのが最適なのは明白であり、米国は、国連安保理という舞台を含め、緊張や危機をあおる言動を取るべきではない。

(3)NATOの東方拡大こそが、昨今の緊張に対処する上で避けては通れない問題だ。各国は、交渉を通じて、均衡的、有効的、そして持続可能な欧州の安全保障メカニズムを構築すべきであり、その過程で、ロシアの合理的な安全保障上の関心や懸念も重んじられるべきだ。

 中国にとって国力を争う米国の行動への懸念や警告がにじみ出ています。北京冬季五輪が開幕した2月4日、同地を訪れたプーチン大統領が習近平(シー・ジンピン)国家主席と約2年ぶりに対面で会談しました。

 両首脳は、「核心的利益」(武力行使をしてでも守るべき利益)のために行動を一致させ、外部勢力による内政干渉や、民主化を促そうとする「色の革命」への反対を主張。「米国が推し進めるインド太平洋戦略が地域の平和と安定に与える負の影響を高度に警戒する」など、米国の意図や行動に名指しで警戒心をあらわにしました。「NATOの継続的拡大に反対」も共同声明で明記しました。

 一方で、中ロ首脳会談後に中国外交部が発表したプレスリリースや共同声明に「ウクライナ」の文字は一切出てきません。中国は、ロシアの安全保障的な関心(ウクライナのNATO加盟阻止)は尊重されるべきと各方面に働きかけつつも、ロシアがウクライナに軍事侵攻すること、ウクライナ情勢をめぐってロシアとNATOが軍事衝突することには反対なのです。

 実際に、中国、ロシア、ウクライナの「三角関係」は、外の世界が想像するような、中ロが結託して、欧米に近いウクライナに圧力をかける、という類の単純構造ではありません。

 ここで、中国とウクライナとの関係を整理してみましょう。

 中国は、ソ連解体後、ウクライナの独立を最も早い段階で承認し、国交を結んだ国家の一つです。2022年、中国とウクライナは国交正常化30周年を迎えます。

 習主席とウクライナのゼレンスキー大統領は1月4日の電話会談で、「双方の政治的相互信頼関係は深化し、各領域における協力の成果は目覚ましい」と話しています。

 ウクライナにとって中国は最大の貿易相手国であり、中国にとってウクライナはトウモロコシ、ひまわり油の最大輸入国となっています。

 2020年の両国間の貿易額は147億ドルと、国交正常化後のおよそ30年間で60倍以上に増えました。2021年1~10月の貿易額は157億ドルと前年同期比32%増、過去最高額を記録しています。

 2021年、両国政府はインフラ協力を巡る新たな協定を結びましたが、ウクライナは中国の国家戦略である「一帯一路」の枠組みで、中国のインフラ投資や企業進出を呼び込んでいるのが現状です。

 私自身、この期間に中国の外交関係者らと議論をしてきましたが、そこから分かった中国政府の認識と立場が以下の3点です。

(1)中国は、ウクライナが「親ロシア国」になることなど望んでいない
(2)ウクライナが極度に「親米化」し、NATOに加盟することも望んでいない
(3)中国はウクライナに独立自主の外交を展開し、米国はもちろん、ロシアの意向にも左右されない。ウクライナにも同様のスタンスで、中国との関係を発展させてほしい