ゼロコロナへ厳戒態勢。北京市民を取り巻く現状

 絶対多数の中国国民は、自国開催の五輪を、私たち同様にテレビの画面上でしか見られません。肌感覚としては、柵の向こう、というよりは、どこかの外国で開催されているような感覚すら抱いているでしょう。とはいえ、自国開催に変わりはなく、中国共産党は五輪を成功裏に開催することで、国の威力を強くアピールすべくありとあらゆる宣伝を展開していくのは必至です。

 私の観察では、約半年前に東京で開催された夏季五輪当時に、多くの日本国民が「五輪の開催と国民の安全、どちらが大事なのか?」という観点から当時の菅義偉政権に疑問を投げかけたのとは異なり、「ゼロコロナ」が徹底される中国で、五輪開催を疑問視する世論はほとんどみられません(言論の自由が保証されていないという点を抜きにしても)。

 それにしても、北京の地で「バブル方式」は徹底されています。例として、選手やスタッフと一般市民が乗る車両が道路上でクラッシュし、交通事故が起きても下車が許されず、警察が来るまで車内で待機しなければならないといった状況です。選手やスタッフが専用車で移動する際、全ての移動に五輪管理委員会のスタッフが同行し、いつ下車していいか、どこまで移動していいかなど、全過程、全方位で徹底管理されます。

 一方、「厳戒態勢」について言えば、五輪開催というよりは、コロナ禍、および人の移動が大量に発生する春節期間という要素が占める比重のほうが高い印象です。大多数の国民が厳戒だと感じる対象も、自分と「無関係」な五輪ではなく、あくまでもコロナ禍×春節なのです。

「ゼロコロナ」を実現したい当局としても、五輪よりも春節のほうが断然プレッシャーが大きく、全国的に「コロナ×春節」という二重構造下における厳戒態勢が敷かれているのが現状です。とりわけ、北京当局は、「五輪×コロナ×春節」という三重構造に見舞われており、北京市民の生活や移動も、より厳重に制限されています。

 私の知人の証言を基に、北京市民を取り巻く現状をいくつか紹介したいと思います。

 まず、党機関紙で働く二人のメディア関係者によれば、北京で仕事をする外地(北京以外の地)出身者は、国有企業や政府を中心に、春節期間中も帰省してはならず、北京に残って年越しをするように半強制的に要求されているとのこと。「今いる場所で年越しを」(中国語で「就地過年」)が全国的に奨励され、北京では特に著しいとのことです。

 年越しのために帰省しない、北京に残るからといって自由に活動していいというわけではありません。春節期間中、外地から人を呼ぶ全国規模の会議や研修を開催してはならない、お寺などにおける集団的お参りやエンターテインメント、商店での販促キャンペーンなども原則禁止、家庭内での集まりも10人を超えてはならない、などの規定が設けられています。

 北京市政府は、交通手段を問わず、入京するすべての人間のスマホにダウンロードされている「行程コード」(過去14日以内に赴いた地域が表示)に「中リスク地域」(筆者注:過去14日以内に累計感染者数が50人以下、かつクラスターが発生していない地域。小リスク地域は過去14日以内の累計感染者数が0の地域。高リスク地域は過去14日以内の累計感染者数が50人以上、かつクラスターが発生した地域)に行った経緯がないかを厳格にチェックしています。

 誰がいつ、どこに行ったかは全て自動的にコードに記録される仕組みになっています。仮に本人の意思に反して(例えば12日前から10日前までの3日間、出張でXX市に滞在、離れた翌日にXX市が「中リスク地域」に指定されるような場合)、XX市に滞在していた事実が記録されると、入京できず、空港や鉄道の駅かは問わず、無条件に同じ経路で出発地に帰るよう命じられます。知人たちの話を総括すると、最悪なのは高速道路で、高速から一般路に降りることも許されず、路頭に迷う人間が全国各地で多発している模様です。

 さらに、外地から入京するには48時間以内にPCR検査をしなければなりません。春節直前に、南京から高速鉄道で北京入りした出版関係者によれば、PCR検査は南京では40元(約700円)、価格は各都市で異なり、安くて20元、高くて60元くらいとのこと。

 1日前に予約、結果が出るまでに1日かかり、その後結果が携帯に送られてきます。高速鉄道の車両内で1回、北京の駅でもう一回チェックされ、そこでPCR検査結果が陰性で、かつ過去14日以内に「中リスク地域」に滞在していないことが証明されて初めて街に出ることが許されます。現在、すべての入京者には同様の措置が取られています。