先週、年明け一本目として、日本人投資家が注目すべき中国8大イベントを解説しました。今回は、その続編として、今秋に開催予定の第20回共産党大会を経て政権3期目突入をもくろむ習近平(シー・ジンピン)総書記が懸念する八つのリスクを、権力基盤の安定と続投に向けた政権運営という観点から考えてみたいと思います。

習近平が懸念する八つのリスク

リスク1:新型コロナウイルス

 新型コロナウイルスの感染状況は今年も世界経済や各国の政権運営を翻弄(ほんろう)していく不確定要素の一つであり続けるでしょう。私自身、年明け以降、日本の経済学者や投資の専門家と議論させていただく過程では、「第6波」の象徴ともいえる変異株オミクロン型は、感染力は強いものの重症化リスクは低い、故に、昨今の感染拡大はある意味「終わりの始まり」だという声が聞こえてきます。

 一方で、オミクロン感染を警戒し、会食が延期になったり、面談がオンラインになったりという状況も出てきていて、予断を許さない状況が続くと実感しています。

 北京冬季五輪まで1カ月を切っている現状、年末年始、陝西省西安市で、ロックダウン(都市封鎖)を強行するほどに集中的に広がった感染拡大を機に、中国各地は、断続的に感染拡大のリスクに見舞われているように見受けられます。

 直近の感染状況を見てみると、1月10日、全国で新たに感染した人数は192人。うち渡航歴があるなど感染経路が海外とみられる事例が82人、国内市中感染が110人(死者はゼロ)。前者では、上海市27人、広東省18人、福建省10人、天津市8人、浙江省7人と沿岸部での感染が目立ちます。

 逆に後者では、河南省87人、陝西省西安市13人と内陸部が目立ちます。特徴としては、全国的に均一に拡大するのではなく、一部地域でクラスターが発生しているというものです。

 中国では、「ウィズコロナ」ではなく、「ゼロコロナ」政策が断固としてとられており、地方の首長はとにかくこの政治的に正しい「感染者ゼロ」を実現すべく、ロックダウンなど極端な政策を実施する傾向にあります。

 ただし、上記のように、オミクロン型は感染力が強いものの重症化リスクは低いとみられています。それでもゼロコロナを実現すべく、サプライチェーン(供給網)や市民の消費活動を含め、経済成長に直結する要素を犠牲にしてまで、「感染者ゼロ」を政治的に目指すのか。オミクロン型が主流になりつつある現状下で、経済成長との有機的両立という観点から、一定のウィズコロナも容認すべきという見方が当然でてくるでしょう。

 ここまでみてきて、私が考えるリスクは、中国当局として、最新の状況に適応してコロナ抑制と経済成長を両立できるかどうか、適切な平衡を保つための政策を打てるかどうかというものです。

リスク2:経済情勢

 2021年の中国経済を振り返ると、中国独自の強権的な政策スタイルで「ゼロコロナ」を実現しつつ、水際措置は断固厳しいものにすることで、V字回復を狙ってきたと言えます。ただ、上記のように、コロナ抑制と経済成長はどっちを取るかというトレードオフの関係ではなく、いかに両立させるかという段階に移行しているように思います。

 2022年の経済政策として、習氏は安定最優先、成長重視という明確な方針を打ち出しています。財政出動や金融緩和を通じて景気を支えていく、特に、それらのマクロ政策が実体経済の活性化、企業収益の拡大に直接つながるように「実質有効性」を高めていくとしています。中国当局は、政策のアクセルとブレーキを臨機応変にだしてきますから、政策で景気をどう支えるか、という点についてはある程度の自信をもっているでしょう。

 そう考えると、最大のリスクの一つはコロナ抑制との有機的両立でしょう。私が見る限り、中国国民は基本的に当局のコロナ政策を支持していますが、ロックダウン策の度が過ぎたり、それによって国民経済に悪影響が出てくるようになれば、習氏の政権基盤にヒビが入らないとも限りません。「第二の武漢」が出てきても何ら不思議ではないということです。

リスク3:自然災害

 マクロ政策の実施にある程度の自信をのぞかせているとはいえ、さすがの習氏にも自然災害を止めることはできません。昨年夏、河南省で発生した大規模な洪水では300人以上の死者を出しました。同省だけで被災者は約1,400万人に達し、被害額は約2兆円に上ったとされています。

 地震、洪水を含め、不測の災害リスクにどう対応するかは、強権的に政策を動かし、中央と地方の統率を取りやすい中国共産党にとって「得意分野」の一つとは認識していますが、それでも、北京冬季五輪、党大会など世紀の政治イベントを控え、安定的な経済成長が求められるなか、一つのリスク要因と考えるべきでしょう。

リスク4:北京冬季五輪

 開幕式まで残り1カ月を切った北京冬季五輪。年明けの1月4日、五輪の会場や選手村を視察した習氏は「中国の準備は整った」と高らかに宣言しました。大会に向けて念入りな準備を進め、開催期間中も総力を挙げて運営していくでしょうから、各競技の運営自体はある程度円満に進むと予測しています。

 問題は、五輪開催期間、あるいはその前後に、新型コロナウイルスの感染が拡大するかどうか、各国、特に西側選手と中国当局の間で人権問題などを巡って何らかの摩擦が起きるか、「五輪と人権」をテーマに、中国と西側の間で対立や不信が激化するか、といったところでしょう。

 北京冬季五輪の開催そのものが、中国と西側諸国の関係悪化の引き金となるのであれば、特に、中国を製造や販売の拠点とする、日本を含めた西側の企業は間に挟まれて、供給網の再構築や経営再編といった課題に対応せざるを得なくなる可能性が高まるでしょう。