リスク5:バイデン米政権の対中政策

 2022年、米国との関係は引き続き習氏にとって最大の外的不安要素であり続けるでしょう。中国共産党指導部はもはや米国を信用していません。新疆(しんきょう)ウイグル自治区や香港における人権問題での批判や制裁、台湾の国際的行動への支援や軍事協力、言論の自由や市民社会への抑圧的政策、北京冬季五輪への「外交的ボイコット」、中国企業への制裁措置などあらゆる分野における米国の対中政策は、中国の発展を封じ込めること、場合によっては、中国共産党に対して政権転覆を狙っていること、を目的としているというのが党指導部における普遍的な認識です。

 実際に、米国は、中国の政治体制、発展モデル、産業政策、外交政策、国内の人権政策などを包括的に問題視し、それらが変わらなければ米中関係は安定も繁栄もしないという姿勢をあらわにしています。一方の中国は、それらは内政干渉、主権侵害だとして断固として譲りません。両者の言い分は平行線をたどるばかりで、今年を通じて予断を許さない緊張関係が続くでしょう。

 焦点となるのは、米中双方が内政に一大イベントを控えていること。共に秋の季節、中国では5年に一度の党大会が、米国では中間選挙が予定されています。互いに内政に時間や労力を割かなければならない、米中関係でもめている場合ではない、故に、両国関係は比較的静かに運行するのではないかという見方はできます。

 一方で、トランプ政権期の貿易戦争以降、新型コロナウイルスの発生源、香港、新疆ウイグルといった問題を含め、米国では対中強硬、中国では対米強硬が相当程度主流な世論になっているのもまた事実です。

 一大イベントを前に内政で権力基盤を固めたい習、バイデン両指導者が、国内での矛盾を相手国に転嫁すべく、反米や反中を利用しないとも限りません。そうなれば、米中関係はより一層の緊張関係と相互不信に見舞われるでしょう。

リスク6:米FRBによる利上げ

 昨年来、中国の政策関係者の間では、中国経済の安定的運営に影響する要素は、エネルギー価格の高騰、供給不足、新型コロナなどいろいろあるが、外的要因として最も警戒しているのが米国FRB(連邦準備制度理事会)による利上げ、すなわち金融の引き締めという議論がなされています。

 中国不動産大手・恒大集団の債務危機が表沙汰になってからも、海外から中国への資金流入は続きました。米FRBが利上げに踏み切れば、それらのマネーは米国に回帰する可能性が高く、資金流出に見舞われる中で、自国通貨は元安に傾くでしょう。

 そうなれば、ただでさえ石炭などの原材料不足で一定程度輸入に依存しなければならない状況下で、関連企業の収益は圧迫され、物価の上昇、その先には昨年末に一部緩和した金融政策を今度は引き締めるという可能性も否定できません。そうなれば、景気の動向は迷走するにちがいありません。

 私の理解では、これら考え得るリスクを中国の政策関係者は明確に認識し、必要な準備を整えているように見受けられますが、FRBが利上げに踏み切るとき、中国経済で何が起こるか、中国当局がどんなスタンスで対応していくかに同時に注目する必要があるでしょう。

リスク7:台湾問題

 習氏率いる共産党指導部は、引き続き台湾当局に対して、軍事的、外交的、経済的圧力をかけることで、台湾の独立志向的な動き、および米台間の軍事、国際レベルでの連携を抑止しようと動いていくことでしょう。そのたびに、台湾海峡には緊張が走るという局面が年間を通して続いていくと思います。

 例として、昨年12月、中米ニカラグアが台湾と国交を断絶、中国と国交を回復させました。これで、台湾と国交を結んでいる国は世界中で残り14となりました。中国としては、この数をゼロにすべく関連国に経済支援などをしていくでしょう。

 このような緊張状況にありながらも、私の見方では、秋に自らの続投を懸けた党大会を控える習氏としては、この年に大きな動き、例えば台湾への侵攻、周辺海域における米国との軍事衝突などは避けたいと考えているでしょう。

 仮に局面を制御できなければ、あるいは失敗すれば、言うまでもなく習氏本人の権力基盤だけでなく、共産党としての正統性にまでヒビが入る統治リスクに見舞われる可能性が高くなるということです。

 とはいうものの、仮に台湾当局が米国と連携する形で中国の「主権」を尊重しない、「一つの中国」政策を踏みにじっているという見方や印象が中国国内で広がっていけば、これまでも米国や台湾に断固とした姿勢で向き合ってきた習氏として、強硬的に出ざるを得なくなる。そうならないために、習氏はバイデン氏に対し、台湾問題で慎重に慎重を重ねるよう求めていくでしょう。

 2022年、台湾海峡を巡って、習氏は平和的管理を最も重視していくと私は見ています。

リスク8:対中包囲網

 2019年末から2020年初頭にかけて、武漢を発端に新型コロナウイルスが中国で広まり始めたころ、当局が最も懸念していた三つのリスクが(1)経済の低迷、(2)社会不安のまん延、(3)国際的孤立だったと分析しました。中国はコロナ禍において、「国内大循環」、「国内外双循環」、「共同富裕」などを掲げつつ、エネルギー、技術、食料、人材などの自給率、国産率を高めるべく政策を打ってきました。

 とはいうものの、中国経済と世界経済は密につながっている。外との連携、協力あっての中国経済という認識や主張は明確に見られる、ということから、習氏としても、中国は国際社会の中でどう生きるべきかという意識が強いと言えます。

 だからこそ、この期間、日米印豪からなる「QUAD」、米英豪からなる「AUKUS」、G7(主要7カ国)といった枠組みにおける議論や協議が、中国の海洋進出や国内外における高圧的行動に警戒心を露骨に示し、中国を名指しで批判するような局面に激しく反発すると同時に、対中包囲網が重層的に形成されることで、中国が国際的に孤立する局面を恐れているのです。

 中国としては、G7加盟国に加えて豪州やニュージーランドといったアングロサクソン系国家が同包囲網に加わるのは想定内として、そこにQUADの加盟国であるインド、ASEAN(東南アジア諸国連合)、EU(欧州連合)などの加盟国までが加わるようになれば、さすがに大きな外交圧力に見舞われるでしょう。

 そうならないように、習氏としては引き続き、経済協力などを二カ国関係で推し進め、G20を含めた多国間の枠組みに対して、中国が国際社会の平和と繁栄に貢献しているのだとアピールしていくことでしょう。

 2022年、習近平氏のリスク管理から目が離せません。