来秋の党大会に向けて安定最優先。大胆な財政出動で景気の下振れ回避?

 会議は、党指導部による来年の経済政策を「穏字当頭、穏中求進」と設定しました。「安定最優先」で、「安定の中で進化を追求」するという意味です。

 そのために、次の方針を掲げています。

・マクロ政策を穏健に有効活用する

・ミクロ政策は企業活動の活性化につながるようにする

・構造政策は国民経済循環を活性化することに注力する

・科学技術政策を着実に実施する

・改革開放政策は発展の原動力活性化につながるようにする

・地域間の発展の平衡性と協調性を重んじる

・社会政策は国民生活のボトムラインを守るために展開する

 中でも、私が注目したのはマクロ政策における次の部分です。

「積極的な財政政策と穏健な金融政策を持続的に実施する。積極的な財政政策は効率を向上させ、ピンポイントかつ持続可能に注入する。財政出動の強度を保障し、出動のスピードを加速させる

 安定最優先という最大方針の下、年間を通して経済の安定成長を貫くために、財政出動に大きな役割を担ってもらうという明確な政策設定だといえます。また、出動先として、「適度かつ先行的にインフラ投資を展開する」とも付け加えています。

 裏を返せば、需要が収縮し、供給が制約を受け、期待が低下している「三重苦」は来年も続く見込みであり、そのためのマクロ政策の最重要事項に財政出動を据えているということです。来年全人代で発表される、GDP比の財政赤字率に注目です。

安定成長vs景気低迷?カギを握るのはバランスとハンドリング

 本レポートの最後に、会議が「正しい認識と把握を持たなければならない」とするポイントのうち、私が重要だと考える3つの分野を挙げます。

(1)共同富裕

 会議は、共同富裕の戦略的目標と実践アプローチを正しく認識、把握しなければならないといいます。社会主義制度の下、社会生産力を不断に解放、発展させ、財と富を不断に創造、蓄積すると同時に、貧富の二極化を防ぐ必要があると主張。共同富裕を実現するために、まずは経済のパイを大きくし、それから合理的な制度で分配していくこと、それが長期的な歴史プロセスになると指摘しています。税制、社会保障、移転支払といった手段で富の再分配を図っていくとしています。

(2)資本政策

 会議は、資本の特性と規律を正しく認識、把握しなければならないといいます。「社会主義市場経済の中にはあらゆる形態の資本が存在するのは必然的」であり、資本の生産要素としての積極的役割を生かしていかなければならないと認めると同時に、その消極的作用を有効に防止しなければならず、「資本に“信号機”(筆者注:赤信号と青信号の基準やラインを明確にする点を暗示している)を設置することで、資本への有効な管理監督、資本の野蛮な膨張を防止する」と主張しています。

(3)節約優先

 昨今のエネルギー価格高騰、資源高などを受けて、まずは節約優先で難局を乗り切るという方針をあらわにしています。生産分野において、資源の節約、集約、循環的利用を促していくとしています。消費の分野でも、国民の節約意識、適度に質素な習慣、環境にやさしい低炭素のライフスタイルを促していく必要があると指摘しています。「中国人の飯の問題は、いかなるときも自らの手で解決しなければならない」という指摘も、食料安全保障という観点から重要な国家戦略だと思います。

 ここまで書いてきて、党指導部に求められるのはやはり適切でバランスの取れたハンドリングだと改めて思いました。ここに掲げた共同富裕、資本政策、節約優先に関して、政策としては合理的ですし、14億の人口を抱える中国経済を中長期的に成長させていくためには不可欠でしょう。

 一方で、それを前面に押し出し過ぎれば、それらはまさに「収縮作用のある政策」と化し、景気の足かせになり、下振れ圧力はさらに高まるというジレンマを抱えています。中国は政治の国、中国共産党は政策の党ですから、最後は正しい政策を正しく実施できるか否かにかかっている、その意味で2022年も例外ではないと私は考えます。