中国経済をめぐる“三重苦”とは?
共産党結党百周年に当たる今年は、第14次五カ年計画(2021~2025年)の初年度でもあります。会議では「良好なスタートを切った」と総括。具体的には、次の6点の成果を指摘しました。
(1)中国の経済成長と新型コロナ抑制は世界トップ
(2)国家戦略科学技術力が加速的に壮大化
(3)産業チェーンの強靭(きょうじん)性向上
(4)改革開放が深い次元で推進
(5)国民生活の保障が有力化・有効化
(6)生体文明建設が持続的に推進
特に(1)は、来年2月に北京冬季五輪、秋には習氏の3期目続投いかんが決まる第20回党大会を控えるため、党指導部としては何としても正当化したい最優先事項といえるでしょう。
一方で、会議は「我が国の経済成長は、需要収縮、供給制約、(成長)期待低下の三重の圧力にさらされている」とリスク要因を認めます。
この「三重圧力」という表現、およびその内訳は、中国共産党の政策研究を生業(なりわい)とする私でも初めて目にするものです。党指導部として、経済成長の足かせとなる“三重苦”を極度に懸念する表れだと分析できます。
三重苦を具体的に見ていきましょう。
1:需要収縮
コロナ禍において、輸出、消費、投資という経済成長を保障するための全ての分野で、景気下振れ圧力が見られるという認識を党指導部は持っている。
2:供給制約
昨今のエネルギー価格高騰などに代表されるが、会議は、景気の安定のために必要な石炭、電力、半導体、原材料、労働力が足りないと認めている。
3:期待低下
国内経済学者や国際組織の中国経済への期待値が下がっている、市場は中国経済への自信を喪失している、という懸念を当局が持っているのだといえる。
これらに加えて、党指導部は、米国当局がどのタイミングで利上げに踏み切るかにも、景気の下支えという観点から固唾(かたず)を飲んで注視していくでしょう。
私が興味深かったのが、会議が、党指導部の政策として、「経済が質の安定的向上と量の合理的増長を実現するプロセスを推進する」と指摘したことです。この「質の安定的向上と量の合理的増長」も普段見られない表現です。
これに対する私の分析は、構造改革と経済成長という両輪を、同時進行で回していかなければならないが、三重苦に悩まされている状況においては、「成長」の足かせになる「改革」には慎重に取り組むということです。
これに関連して、会議閉幕後、韓文秀(ハン・ウェンシュウ)中央財経委員会副主任が行った「解読」に極めて重要な一言が含まれています。
「各地域、部署は、マクロ経済を安定させるための責任を負わなければならない。これは経済問題であると同時に政治問題である。各方面は経済安定に有利に働く政策を積極的に打ち出し、収縮作用のある政策の打ち出しには慎重になること」
私の理解によれば、「収縮作用のある政策」には、市場の期待値を下げるような政策、企業の収益を圧迫し、積極性を打ち消す政策なども含まれます。
個人的に関心があるのは、今年、大々的に展開され、市場を翻ろうした“規制ラッシュ”が来年どういう局面を迎えるかです。言うまでもなく、規制強化は一定の収縮作用を内包しますから、今年に比べれば、党指導部は引き締めを緩めるのではないかと推察します。
韓主任は、一部機関や専門家の予測という担保を取りつつ、2021年、中国のGDPは8%前後の成長は問題なく、総量は110兆元、一人当たりGDPは1.2万ドルを超え、「世界銀行が定める高収入国家の入り口に近づいている」としています。CPI(消費者物価指数)は1%以下、都市部で新たに創出される雇用は1,200万人以上、全国都市部における調査失業率は5%前後、「比較的高い成長、比較的低いインフレ、比較的多い雇用という適切な組み合わせを実現する」見込みであるという展望を披露しているのです。
来年3月の全人代で、この表現に似通った総括や目標設定がなされるでしょう。