12月8~10日、北京で中央経済工作会議が開かれました。2021年の経済情勢を振り返り、2022年の経済政策を策定する極めて重要な会議です。中国共産党指導部は現状を楽観視せず、大胆な財政出動も視野に入れています。景気下振れにつながる政策に慎重になる姿勢も垣間見られました。

 果たして2022年の経済政策はどうなるのか。今回、解説していきます。

「中央経済工作会議」は最重要の経済年次会議

 中央経済工作会議(以下、会議)は毎年師走に開催されていますが、経済分野に焦点を当て議論する舞台として最も重要な会議だと、私は認識しています。重要談話を発表する習近平(シー・ジンピン)総書記以下、具体的な経済政策を説明する李克強(リー・カーチャン)首相など中央政治局常務委員(トップ7)全員が出席します。

 その他、政治局委員(常務委員を含めたトップ25)、中央書記処書記(党の日常業務を統括する最高幹部)、全国人民代表大会幹部、国務委員、最高人民法院院長(日本の最高裁判所長官に相当)、最高人民検察院検察長(日本の検事総長に相当)、中央軍事委員会委員、各地方自治体の最高幹部、国有銀行・企業の最高幹部、解放軍幹部らも参列。要するに、中国という国家を統治する最高幹部オンパレードの最重要政治イベントというわけです。

 師走に行われるこの会議で、その年の経済情勢を総括し、翌年の経済政策の大枠と方針を決定します。そして約3カ月後、毎年3月に開催される全国人民代表大会(全人代)で、GDP(国内総生産)成長目標を含めた当年の経済政策を公表するわけです。

 その意味で、起点となるのはこの会議であり、私が経済分野における最も重要な会議と主張するゆえんです(全人代は経済以外の分野も総合的に議論する場のため)。

 従って、会議を丁寧に分析し検証すれば、党指導部が経済情勢の現状をどう見ているか、そしてこれからどのような政策を打ち出していくか、読み取れるわけです。

中国経済をめぐる“三重苦”とは?

 共産党結党百周年に当たる今年は、第14次五カ年計画(2021~2025年)の初年度でもあります。会議では「良好なスタートを切った」と総括。具体的には、次の6点の成果を指摘しました。

(1)中国の経済成長と新型コロナ抑制は世界トップ

(2)国家戦略科学技術力が加速的に壮大化

(3)産業チェーンの強靭(きょうじん)性向上

(4)改革開放が深い次元で推進

(5)国民生活の保障が有力化・有効化

(6)生体文明建設が持続的に推進

 特に(1)は、来年2月に北京冬季五輪、秋には習氏の3期目続投いかんが決まる第20回党大会を控えるため、党指導部としては何としても正当化したい最優先事項といえるでしょう。

 一方で、会議は「我が国の経済成長は、需要収縮、供給制約、(成長)期待低下の三重の圧力にさらされている」とリスク要因を認めます。

 この「三重圧力」という表現、およびその内訳は、中国共産党の政策研究を生業(なりわい)とする私でも初めて目にするものです。党指導部として、経済成長の足かせとなる“三重苦”を極度に懸念する表れだと分析できます。

 三重苦を具体的に見ていきましょう。

1:需要収縮

 コロナ禍において、輸出、消費、投資という経済成長を保障するための全ての分野で、景気下振れ圧力が見られるという認識を党指導部は持っている。

2:供給制約

 昨今のエネルギー価格高騰などに代表されるが、会議は、景気の安定のために必要な石炭、電力、半導体、原材料、労働力が足りないと認めている。

3:期待低下

 国内経済学者や国際組織の中国経済への期待値が下がっている、市場は中国経済への自信を喪失している、という懸念を当局が持っているのだといえる。

 これらに加えて、党指導部は、米国当局がどのタイミングで利上げに踏み切るかにも、景気の下支えという観点から固唾(かたず)を飲んで注視していくでしょう。

 私が興味深かったのが、会議が、党指導部の政策として、「経済が質の安定的向上と量の合理的増長を実現するプロセスを推進する」と指摘したことです。この「質の安定的向上と量の合理的増長」も普段見られない表現です。

 これに対する私の分析は、構造改革と経済成長という両輪を、同時進行で回していかなければならないが、三重苦に悩まされている状況においては、「成長」の足かせになる「改革」には慎重に取り組むということです。

 これに関連して、会議閉幕後、韓文秀(ハン・ウェンシュウ)中央財経委員会副主任が行った「解読」に極めて重要な一言が含まれています。

「各地域、部署は、マクロ経済を安定させるための責任を負わなければならない。これは経済問題であると同時に政治問題である。各方面は経済安定に有利に働く政策を積極的に打ち出し、収縮作用のある政策の打ち出しには慎重になること

 私の理解によれば、「収縮作用のある政策」には、市場の期待値を下げるような政策、企業の収益を圧迫し、積極性を打ち消す政策なども含まれます。

 個人的に関心があるのは、今年、大々的に展開され、市場を翻ろうした“規制ラッシュ”が来年どういう局面を迎えるかです。言うまでもなく、規制強化は一定の収縮作用を内包しますから、今年に比べれば、党指導部は引き締めを緩めるのではないかと推察します。

 韓主任は、一部機関や専門家の予測という担保を取りつつ、2021年、中国のGDPは8%前後の成長は問題なく、総量は110兆元、一人当たりGDPは1.2万ドルを超え、「世界銀行が定める高収入国家の入り口に近づいている」としています。CPI(消費者物価指数)は1%以下、都市部で新たに創出される雇用は1,200万人以上、全国都市部における調査失業率は5%前後、「比較的高い成長、比較的低いインフレ、比較的多い雇用という適切な組み合わせを実現する」見込みであるという展望を披露しているのです。

 来年3月の全人代で、この表現に似通った総括や目標設定がなされるでしょう。

来秋の党大会に向けて安定最優先。大胆な財政出動で景気の下振れ回避?

 会議は、党指導部による来年の経済政策を「穏字当頭、穏中求進」と設定しました。「安定最優先」で、「安定の中で進化を追求」するという意味です。

 そのために、次の方針を掲げています。

・マクロ政策を穏健に有効活用する

・ミクロ政策は企業活動の活性化につながるようにする

・構造政策は国民経済循環を活性化することに注力する

・科学技術政策を着実に実施する

・改革開放政策は発展の原動力活性化につながるようにする

・地域間の発展の平衡性と協調性を重んじる

・社会政策は国民生活のボトムラインを守るために展開する

 中でも、私が注目したのはマクロ政策における次の部分です。

「積極的な財政政策と穏健な金融政策を持続的に実施する。積極的な財政政策は効率を向上させ、ピンポイントかつ持続可能に注入する。財政出動の強度を保障し、出動のスピードを加速させる

 安定最優先という最大方針の下、年間を通して経済の安定成長を貫くために、財政出動に大きな役割を担ってもらうという明確な政策設定だといえます。また、出動先として、「適度かつ先行的にインフラ投資を展開する」とも付け加えています。

 裏を返せば、需要が収縮し、供給が制約を受け、期待が低下している「三重苦」は来年も続く見込みであり、そのためのマクロ政策の最重要事項に財政出動を据えているということです。来年全人代で発表される、GDP比の財政赤字率に注目です。

安定成長vs景気低迷?カギを握るのはバランスとハンドリング

 本レポートの最後に、会議が「正しい認識と把握を持たなければならない」とするポイントのうち、私が重要だと考える3つの分野を挙げます。

(1)共同富裕

 会議は、共同富裕の戦略的目標と実践アプローチを正しく認識、把握しなければならないといいます。社会主義制度の下、社会生産力を不断に解放、発展させ、財と富を不断に創造、蓄積すると同時に、貧富の二極化を防ぐ必要があると主張。共同富裕を実現するために、まずは経済のパイを大きくし、それから合理的な制度で分配していくこと、それが長期的な歴史プロセスになると指摘しています。税制、社会保障、移転支払といった手段で富の再分配を図っていくとしています。

(2)資本政策

 会議は、資本の特性と規律を正しく認識、把握しなければならないといいます。「社会主義市場経済の中にはあらゆる形態の資本が存在するのは必然的」であり、資本の生産要素としての積極的役割を生かしていかなければならないと認めると同時に、その消極的作用を有効に防止しなければならず、「資本に“信号機”(筆者注:赤信号と青信号の基準やラインを明確にする点を暗示している)を設置することで、資本への有効な管理監督、資本の野蛮な膨張を防止する」と主張しています。

(3)節約優先

 昨今のエネルギー価格高騰、資源高などを受けて、まずは節約優先で難局を乗り切るという方針をあらわにしています。生産分野において、資源の節約、集約、循環的利用を促していくとしています。消費の分野でも、国民の節約意識、適度に質素な習慣、環境にやさしい低炭素のライフスタイルを促していく必要があると指摘しています。「中国人の飯の問題は、いかなるときも自らの手で解決しなければならない」という指摘も、食料安全保障という観点から重要な国家戦略だと思います。

 ここまで書いてきて、党指導部に求められるのはやはり適切でバランスの取れたハンドリングだと改めて思いました。ここに掲げた共同富裕、資本政策、節約優先に関して、政策としては合理的ですし、14億の人口を抱える中国経済を中長期的に成長させていくためには不可欠でしょう。

 一方で、それを前面に押し出し過ぎれば、それらはまさに「収縮作用のある政策」と化し、景気の足かせになり、下振れ圧力はさらに高まるというジレンマを抱えています。中国は政治の国、中国共産党は政策の党ですから、最後は正しい政策を正しく実施できるか否かにかかっている、その意味で2022年も例外ではないと私は考えます。