台湾海峡では「不安定な平和」が続く?

 最後に、米中首脳会談から台湾海峡リスクの現在地を検証してみます。これまで何度も繰り返してきましたが、米中関係にとって、台湾海峡というのはいわゆるフラッシュポイント(衝突点)であり、アジア太平洋地域における最大の地政学リスクだと言えます。

 仮に、同海峡で米国が介入(日本も逃げられない)する形で、中国―台湾間に軍事衝突が発生すれば、グローバル市場への影響は壊滅的なものになるでしょう。今後の方向性を注視する必要があります。

 会談では、台湾問題も話題に上りました。習氏は「台湾海峡情勢は新たな緊張の局面を迎えている。原因は、台湾当局が米国の援助を求めて独立をたくらんでいることに加えて、一部の米国関係者が台湾を使って中国を封じ込めようとしていることだ」とバイデン氏をけん制しました。

 同時に、「われわれは忍耐を持っている。最大限の誠意、最大限の努力をもって平和的統一という展望をつかみにいきたいと考えている。ただ、仮に台湾独立・分裂勢力がわれわれを挑発し、追い込み、しかもレッドラインを越えるようであれば、断固たる措置を取らざるを得ない」と主張しています。

 会談後、ホワイトハウスの関係者と議論しましたが、習氏が「忍耐」や「最大限の誠意と最大限の努力をもって平和的統一」といった言葉を口にしたのは重要なシグナルだと言っていました。私もそう思います。米国と台湾が中国の主張する「レッドライン」をきちんと把握し、そこを越えないように協調していけば、台湾海峡は不安定な中でも平和を維持できるでしょう。

 米国側のスタンスは、会談後にホワイトハウスがリリースを出したように、「台湾海峡をめぐる現状を変更し、平和と安定を脅かす、いかなる一方的な行動に強く反対する」というものです。

 中国側は、台湾に対する軍事的圧力を強めています。米国側も台湾への軍事上の協力を強めています。米中それぞれが相手国に対して不満をもち、圧力をかけている現状が見て取れます。こうした情勢下で大切なことは、米中両首脳がカウンターパートの戦略的意図を的確に理解し、レッドラインを越えないことです。

 私自身は、少なくとも、中国が5年に一度の党大会を開催する2022年秋くらいまでは、台湾海峡には「不安定な平和」が続くとみています。その後どうなるかに関しては、また筆を改めて、後日検証していきたいと思います。