米中首脳会談で明らかになった「首脳外交」の重要性

 ここからは、11月15日に初めて開催された習氏とバイデン米大統領のオンライン会談を検証していきましょう。私が把握している限りでは、これまでバイデン氏側からオンライン会談の早期実現を要請してきたにもかかわらず、習氏側が慎重姿勢を崩さなかった、という経緯があります。

 バイデン政権の人権問題や台湾問題などに対する政策に不満をあらわにしてきた習政権としては、簡単に応じるわけにはいかない、応じるからには何か妥協を引き出さなければならない、という思惑があったと言えます。

 実際に、会談終了直後、中国側が特に強調していたように、両国政府は、互いの国に駐在する、あるいはこれから駐在する予定のあるメディア記者の査証(ビザ)などに課している制限を緩和する方向で三つの合意に至っています。

 簡潔に記述すると、

(1)新型コロナウイルス禍の各種規則を守る前提で、相手国と正常な往来ができる
(2)相手国の記者に1年のマルチビザを発給する
(3)要求に符合する新任駐在記者のビザ申請を批准する

 の3点です。

 一方で、例えば(2)に関して、中国外交部のプレスリリースによれば、中国は自国に駐在する、あるいはこれから駐在する予定の米メディア記者に対し、米国側の政策措置がきちんとなされていることを確認して、初めて同等の待遇を与えるとしています。まだまだ米国政府への不信感は払しょくできていないといえます。

 米中の二大国が相互に信頼し合えない状況は大問題ですが、今後、留学生や研究者、企業などの往来をめぐる条件の緩和、関税の下方修正、ヒューストンと成都で閉鎖された領事館の再開など、一つ一つの障壁を取り除く努力を両国政府が続けていけば、新たな信頼関係の醸成につながると私自身は考えます。米中関係の悪化が市場にもたらすボラティリティー(変動率)を小さく抑えるという意味でも、好循環につながっていくでしょう。

 習氏側は、バイデン氏側がビザ問題で「妥協」してきたことを確認し、会談に応じたわけですが、米国との関係を管理・制御可能な範囲で管理したい習政権側の意図がにじみ出ていたともいえます。

 私がみる限り、昨今の米中関係には、協力(気候変動など)・競争(政治体制や経済、ハイテクなど)・衝突(安全保障や軍事など)という三つの側面が共存しているといえます。

 習氏は、競争を認めつつも協力主導で両国関係を管理したい。一方、バイデン氏は、競争を主線とみなし、衝突も辞さない(協力も惜しまない)。両者の間にはまだまだ溝が存在しますが、米中双方が管理可能な競争(manageable competition)を持続的に展開していくことは、世界経済やグローバル市場にとっても朗報だと評価できそうです。

 そうなると、やはり習氏・バイデン氏両首脳間の個人的関係が重要です。幸いにして、両首脳は副国家主席、副大統領時代に、2人だけで(通訳は同行)約30時間会話をしてきた経験があります。

 先日のオンライン会談の冒頭で、習氏はバイデン氏を「古い友人」と呼び、両者は画面越しに笑顔で手を振りあっていました。あのやり取りを見ながら、私は、両者は互いの腹の内を知ったうえで、攻防を繰り広げているのだなと感じたものです。

 首脳間の個人的関係は、外交上非常に重要です。個別の案件で対立や摩擦が生じたとしても、国家のトップ同士が安易に喧嘩をせず、「首脳外交」を着実に継続することで、両国の外交関係は初めて管理可能なものになるからです。

 直近の動向でいえば、昨今の原油高を受けて、米国、日本、インド、韓国、英国などが共同で石油備蓄を放出することを発表しましたが、ここに中国が加わったことは非常に重要です。

 米中が共同で石油備蓄を放出するのは初めてのことです。言うまでもなく、原油高が続けば、米中双方の経済が打撃を受けることから、あくまでも国益という冷徹な観点からの動きであるといえます。それでも、地球規模の課題に米中が足並みをそろえて責任ある行動を取ることは世界経済のためにも大事なことです。米中関係の安定性を図るバロメーターになると思います。