相場は自らを正当化する

 それでは10月後半以降の楽観は、一体どのような裏付けがあるでしょうか。

 FRBのテーパー開始を無難に受け入れ、景気・雇用に改善の兆しがあるのは確かです。懸念された燃料価格と債券金利の上昇はほどほどにとどまっています。しかし、10月後半の株式相場急騰場面で、これら条件の改善が出そろっていたわけではありません。

 実は、市場における情報解釈が暗から明に一変した最大の背景は、株式相場が下落から上昇に転じたからといえます。現実のファンダメンタルズは、9~10月前半に不安視されたほど悪かったわけではなく、早晩改善されるとの想定も何ら特別なものではありませんでした。

 しかし、市場の情報解釈はとかく、相場が下がっているのを見ると、なぜ下がるのかに答える悪材料の解釈情報が出回り、相場が上がると、逆になぜ上がるかの好材料の解釈に切り替わるのが常。市場はいつもバランスよく全ての情報を織り込むのではなく、相場が高ければ好材料を強調し、安ければ悪材料を見直す性質が強いのです。

 相場変動は基本的に波動であり、情報の明暗両面を時間差処理するメカニズムといえます(図2)。

図2:相場波動での情報の時間差処理イメージ

出所:田中泰輔リサーチ

情報収集の落とし穴

 一般投資家が一生懸命に情報収集しようとすると、情報の時間差処理メカニズムに翻弄されかねません。実は皆さんが信用するメディアや専門家の情報も、この時間差処理の担い手でもあります。市況解説は基本的に、相場が上がればその理由を、下がればその理由を報じるものです。このため、昨日相場が下がった後には景気の先行きが懸念され…と説明したのが、今日相場が高ければ政策期待で景気改善が見込まれ…と語ることになります。

 相場の専門家も、客観的データ、科学的アプローチで分析して、相場予想をつくるようにとのルールの下にいます。ところが、分析に利用可能なデータは公表済みのもの。情報・データの確実度は、相場では織り込み済みの程度を表し、無用度と言い換えられます。

 つまり、相場における予想も、基本的には予想ではなく「今を語る」ものということです。これは、筆者を含めて、誰もがこの制約下にいるのです。