手のひら返しの相場観

 しかし、ほんの1カ月前まで、相場は暗いムードに覆われていました。

 9月に主要な米経済指標が相次いで弱振れ、景気減速で大丈夫か、コロナ変異株のせいで労働者が仕事への復帰を手控え、経済活動も消費も滞っている、労働者不足の企業は賃上げして求人し、そこに中国恒大問題。さらに天然ガス、石炭、石油の価格高騰が来て、インフレが高進してスタグフレーションか、債券金利が上昇しそう、企業収益は圧迫されそうと、不安に包まれて株式相場は急落しました。市場やSNS(交流サイト)では暴落論が飛び交い、不安をさらに高じさせたものです。

 しかし、相場が反発した10月後半以降はどうでしょう。クリスマス商戦に向けて景気は良好、失業保険の上乗せ措置完了で労働者は職場復帰、燃料は高値圏にあるけど相場一服、FRB議長は物価高が過渡的現象との見通しを改めて確認、米債券金利は結局上がっていない、企業の好決算はスゴイと1カ月前の不安もどこ吹く風です。

ファンダメンタルズ一変か

 実際にファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)が一変したのでしょうか。

 10月前半までの懸念の多くが、取り越し苦労であろうとの見方を、筆者は「トウシル」の動画、レポートで申し上げてきました。そこでは、株式相場にはテクニカルな下値不安、つまり売りが売りを呼びかねない心理的悪循環があり得るので、慎重に相場底抜けリスクを留意しつつ、しかし、前向きに臨むべき理由があると強調しています。要は、3カ月先を想定すれば、市場で騒がれる懸念の多くが緩和されるか、改善されると判断しました。

 では、昨今の市場が楽観するほど、ファンダメンタルズの諸問題は解決されたのでしょうか。

 そんなことは到底あり得ません。コロナ禍克服の経済正常化の過程は依然として相当なデコボコ道と想定されます。

 特に、高インフレが過渡的現象で終わるかは、少なくとも2022年半ばごろまではメドを立てられず、株式相場にとって最大のリスクのままと判断します。もしインフレが過渡的では済まないとの見方が浮上すれば、債券市場は冷静ではいられないはずです。債券売りに弾みが付けば、株式相場も急落リスクも高まるでしょう。