国家戦略から見る中国経済の新常態

 ここまでは政治の話をしてきました。

 中国は政治の国。

 この考え方からすれば、政治は経済に乗っかり、重なるのです。

 習総書記がこれまで説明したような流れと思惑に基づいて「歴史決議」を採択し、その一つの結果として、2022年秋以降も最高指導者として続投となればどうなるでしょうか。経済の構造や市場の在り方にも深い影響を及ぼすと、私自身は考えています。

 先々週のレポートでは、習総書記の肉声をひもときながら「共同富裕」という国家戦略について解説しました。そこでは、習総書記が2035年、2049年を明確に視野に入れながら、長い目でこの戦略に向き合っていこうとしている姿勢を浮き彫りにしています。

「一つ目の百年目標(共産党結党百周年)」が終了する2021年に、史上3回目の歴史決議を採択する理由は、「二つ目の百年目標(建国百周年)」に設定される2049年を視野に入れているからにほかなりません。そして、そこに向かって2035年を中間地点に伸びていくのが「共同富裕」なのです。

「歴史決議」の採択や習政権の3期目突入に大きく関わる話ですが、「共同富裕」の提唱は、「先富論」を容認する形で高度経済成長を促してきた「鄧小平旧時代」に別れを告げ、「習近平新時代」への歴史的大転換を意味します。

 習総書記は、過去10年間(2011~2020年)で倍増させたGDP(国内総生産)・一人当たりGDPを、これからの15年(2021~2035年)でさらに倍増させる目標を掲げています。

 そのためにはもはや「先富論」では成し遂げられない。「共同富裕」を通じて、いまだ人口の半分以上を占める低所得者層や4億人いるとされる中間層を富ませることで、「経済の底上げ」をしていかなければならないと考えているのです。

 経済の底上げを推進する過程で、経済力と軍事力で米国を超越し、祖国を完全統一(台湾問題の解決)するためには、自らが3期目以降に挑まなければならない。そのためには今のタイミングで「歴史決議」を採択しなければならないという思惑だと私は分析しています。

 これまでも本連載で扱ってきましたが、中国経済・市場における一連の規制強化は、究極的にいえば、習総書記が「共同富裕」を推進するための表象でしかありません。

「先富論」に乗っかって勝ち組となったイノベーション企業の「勝ち逃げ」を許さず、「共同富裕」を推進していくために、富の再分配への行動や貢献を促す場面が常態化していきます。まさに「新常態(ニューノーマル)」です。

 今後、党・政府の市場や企業への監督や管理は続いていきます。時に強化されます。低所得者層や中間層の権利や利益を守ることで、「彼らの富を増やすことでしか、経済の底上げは達成されない」と習総書記が考えているからです。

 こう見ると、習総書記が6中全会を通じて「歴史決議」を採択することと、中国経済の構造や市場の在り方が無関係でないどころか、密接にリンクしている現実が浮かび上がります。最後にもう一度繰り返します。

「中国は政治の国」なのです。